換価の猶予とは|差押えを止める申請と6か月の期限
更新日: 2026-08-21
この記事でわかること
- 換価の猶予が認められると分割で納付でき、差押えと換価が止まること
- 申請の期限が納期限から6か月以内であること
- 添付書類が猶予額100万円を境に変わること
- 納税の猶予とはきっかけも期限も違うこと
- 猶予が使えないときに残る手段
目次
税務署から督促状が届いた。払う意思はあるが、一括では出せない。
このときに使えるのが換価の猶予です。認められれば分割で納められ、財産の差押えも止まります。
ただし、申請には期限があります。
このページでは、制度の中身、申請の期限と書類、納税の猶予との違いを整理します。
まず結論:分割で納められ、差押えも止まります
換価の猶予は、国税を一時に納付することにより事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがある場合に、申請にもとづいて認められる制度です。
根拠は国税徴収法第151条の2です(出典: 国税庁「換価の猶予の申請手続」・2026年8月20日確認)。
認められると、次の2つが起きます。
| 起きること | 意味 |
|---|---|
| 分割での納付 | 一括ではなく、月ごとに分けて納められる |
| 換価の猶予 | 差し押さえた財産を売却して換金する手続が止まる |
「払えない」ではなく「払う意思はあるが、一括が難しい」という状態のための制度です。
制度の目的が、納める意思のある事業者を事業ごと潰さないことにあります。だから申請する側が引け目を感じる必要はありません。
条件:期限は納期限から6か月以内
ここがいちばん見落とされる点です。
換価の猶予の申請は、納付すべき国税の納期限から6か月以内に提出する必要があります。
この期間を過ぎると、申請そのものができません。
6か月をどう数えるか
起点は納期限です。督促状が届いた日でも、税務署から連絡があった日でもありません。
- 消費税の確定申告なら、課税期間の末日の翌日から2か月後が納期限
- 法人税も同じく、決算日の翌日から2か月後が納期限
- 中間申告があれば、その納期限から別に6か月を数える
納期限を過ぎた時点で、すでに時計は動いています。
「督促状が来てから考えよう」と待つと、その分だけ選べる期間が短くなります。
手順:申請に添える書類
申請書のほかに添える書類は、猶予を受けようとする金額で変わります。
| 猶予を受ける額 | 添えるもの |
|---|---|
| 100万円以下 | 財産収支状況書 |
| 100万円超 | 財産目録と収支の明細書(財産収支状況書に代えて) |
このほかに担保提供書を求められることがあります。担保は国債・地方債・社債などの有価証券、不動産、保証人などから選びます。
様式はすべて国税庁のページからExcelとPDFで配布されており、記載例も公開されています。
書類の名前を知っているだけで、窓口での話が変わります。「財産収支状況書は用意しました」と言えれば、そこから先に進めます。
提出のしかた
- e-Taxで申請できます。個人・法人それぞれのログインからe-Taxソフト(WEB版)を使います
- 書面でも構いません。持参・郵送のほか、閉庁日でも時間外収受箱に投函できます
- 提出先は、納付すべき国税の徴収を担当する国税局または税務署です
比較:納税の猶予とはきっかけが違います
似た名前の制度に納税の猶予があります。混同されやすいので、違いを並べます。
| 項目 | 換価の猶予 | 納税の猶予 |
|---|---|---|
| きっかけ | 一時の納付で事業の継続または生活の維持が困難になるおそれ | 下記の猶予該当事実があること |
| 提出時期 | 納期限から6か月以内 | 該当する事実が生じたとき |
| 添える書類 | 財産収支状況書 | 財産収支状況書+事実を証する書類 |
| 100万円超のとき | 財産目録と収支の明細書 | 同じ |
| 根拠 | 国税徴収法第151条の2 | 国税通則法第46条ほか |
納税の猶予に当たる6つの事実
災害と盗難だけだと思われがちですが、そうではありません。次のいずれかに該当することが要件です。
- 財産について、災害を受けたり盗難にあったこと
- 納税者や家族が病気にかかったり負傷したこと
- 事業を廃業したり休業したこと
- 事業について著しい損失を受けたこと
- 上記の1から4に類する事実があったこと
- 本来の期限から1年以上経過した後に、修正申告などにより納付すべき税額が確定したこと
出典は国税庁「No.9206 国税を期限内に納付できないとき」です(2026年8月21日確認)。
4つ目に注目してください。売上の急減など、事業について著しい損失を受けた場合も納税の猶予の対象になり得ます。
「災害ではないから使えない」と決めつけないでください。どちらの制度を使うかは、事情を伝えたうえで税務署の徴収担当と相談して決まります。
費用:猶予が認められると延滞税が軽くなります
ここは誤解されやすい点です。
猶予が認められた場合、猶予期間中の延滞税は全部または一部が免除されます(出典: 国税庁「No.9206 国税を期限内に納付できないとき」・2026年8月21日確認)。
差押えが止まるだけでなく、利息にあたる負担も軽くなるのが猶予の効果です。
申請しなかった場合の延滞税
国税庁が公表している令和8年1月1日から令和8年12月31日までの割合は、次のとおりです。
| 期間 | 割合 |
|---|---|
| 納期限の翌日から2か月を経過する日まで | 年2.8% |
| それ以後 | 年9.1% |
出典は国税庁「延滞税の割合」です(2026年8月20日確認)。
2か月を境に3倍以上に上がります。
申請するかしないかで、差押えの有無だけでなく負担額も変わります。放置していて得になることは何もありません。
条件:認められるための5つの要件
要件は1つではありません。次の5つをすべて満たす必要があります。
- 国税を一時に納付することにより、事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがあると認められること
- 納税について誠実な意思を有すると認められること
- 換価の猶予を受けようとする国税以外の国税の滞納がないこと
- 納付すべき国税の納期限から6か月以内に申請書が提出されていること
- 原則として、担保の提供があること
3つ目に注意してください。ほかの国税を滞納したままだと、この申請は通りません。複数の税目を滞納している場合は、窓口でまとめて相談することになります。
なお、この「申請による換価の猶予」のほかに、税務署長の職権による換価の猶予もあります。
担保が要らない場合があります
5つ目の担保について、次のいずれかに当てはまれば提供は不要です。
- 猶予を受ける金額が100万円以下である場合
- 猶予を受ける期間が3か月以内である場合
- 担保として提供できる種類の財産がないといった事情がある場合
「担保がないから無理だ」と諦める前に、この3つを確認してください。
時間:猶予は原則1年、延長で最長2年
猶予を受けられる期間は、1年の範囲内です。
申請者の財産や収支の状況に応じて、最も早く完納できると認められる期間に限られます。希望した期間がそのまま通るわけではありません。
猶予を受けた国税は、猶予期間中の各月に分割して納付します。
期間内に払いきれないとき
やむを得ない理由があると認められる場合、期間の延長を申請できます。
当初の猶予期間が終了する前に所轄の税務署へ申請すれば、当初の期間と合わせて最長2年以内の範囲で延長が認められることがあります。
期限が来てから相談するのでは間に合いません。終わる前に動いてください。
注意点:認められた後に気をつけること
申請が通ったら終わりではありません。3つだけ覚えておいてください。
- 約束した月額を守る——履行できないと猶予が取り消されることがあります
- 無理な金額で申請しない——通したい一心で高い月額を書くと、あとで破綻します
- 新しい税金は期限どおりに納める——猶予の対象は申請した分だけです
不許可だった場合
不許可の処分に対しては、国税通則法第75条により不服申立てができます。
ただし申立てをしている間も延滞税は積み上がります。並行して、納付する資金を作る手立てを考えておいてください。
比較:猶予が間に合わない・使えないとき
6か月を過ぎていた、あるいは分割の月額すら出せない。そういう場合に残る手段を、費用の安い順に並べます。
1. 支払条件の見直し(費用ゼロ)
仕入先・外注先・家主への相談です。税金より先に、動かせる支払いを動かします。
2. 公的融資
ただし滞納があると審査は厳しくなります。だからこそ、猶予の手続きを先に済ませる意味があります。
3. 売掛金の資金化
未入金の請求書があれば、入金を前倒しできます。これは借入ではないため、審査で主に見られるのは取引先の支払い能力です。滞納があっても使える場合があります。
ただし手数料はコストです。猶予で分割にできるなら、そちらが先です。
条件:どの税金が対象になるか
換価の猶予は国税の制度です。所得税・法人税・消費税・源泉所得税などが対象になります。
| 種類 | 窓口 |
|---|---|
| 国税(消費税・法人税・源泉所得税など) | 税務署 |
| 地方税(住民税・固定資産税・事業税など) | 都道府県・市区町村 |
| 社会保険料 | 年金事務所 |
地方税と社会保険料は、国税とは別の手続きです。
制度の考え方は似ていますが、窓口も様式も違います。複数を滞納している場合は、それぞれに相談することになります。
手順:今日から3日でやること
1日目:納期限を確認する
納付書か申告書の控えを出し、納期限がいつかを確かめます。そこから6か月以内かどうかで、取れる道が変わります。
2日目:金額を出す
猶予を受けたい額と、毎月いくらなら確実に納められるかを計算します。「できるだけ払います」では判断してもらえません。
3日目:税務署へ連絡する
◯◯株式会社の◯◯と申します。消費税の納付についてご相談させてください。一括での納付が難しい見込みですので、換価の猶予の申請を考えております。伺う日をいただけますでしょうか。
制度の名前を出せると、話が一度で進みます。
条件が合いそうであれば、見積もりを取るところからです。相談だけであれば費用はかかりません。
今日やる一歩
このページを閉じたら、最初にやることを1つだけ決めましょう。
- 納期限から6か月以内——国税庁のページから申請書と財産収支状況書を印刷する
- 6か月を過ぎている——それでも税務署に相談する。分割の相談に応じてもらえる場合があります
- 差押予告が届いている——今日中に電話する。差押予告通知が届いたらも併せてお読みください
放置がいちばん高くつきます。連絡した時点から、話は動きはじめます。
参考にした公的資料
- 国税庁「No.9206 国税を期限内に納付できないとき」——5つの要件・担保が不要な場合・猶予期間・延滞税の免除(2026年8月21日確認)
- 国税庁「換価の猶予の申請手続」——提出期限・添付書類・様式(2026年8月20日確認)
- 国税庁「納税の猶予の申請手続」——災害等による場合の手続(2026年8月20日確認)
- 国税庁「延滞税の割合」——令和8年の割合(2026年8月20日確認)
このページは、資金調達と公的制度の判断材料をお伝えするものです。特定のサービスの利用を勧めるものではありません。猶予制度の適用や必要書類は個別の事情によって変わります。必ず所轄の税務署または顧問税理士へご確認ください。
よくある質問
換価の猶予とは何ですか?
国税を一時に納付することにより事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがある場合に、申請にもとづいて認められる制度です。根拠は国税徴収法第151条の2です。認められると分割での納付ができ、財産の差押えや換価も猶予されます。
申請に期限はありますか?
あります。納付すべき国税の納期限から6か月以内に提出する必要があります。この期間を過ぎると申請できません。督促状を待つのではなく、納期限の前後で動いてください。
申請に何を添えますか?
換価の猶予申請書に財産収支状況書を添えます。猶予を受けようとする金額が100万円を超える場合は、財産収支状況書に代えて財産目録と収支の明細書を提出します。担保提供書を求められることもあります。様式と記載例は国税庁のページで配布されています。
納税の猶予とはどう違いますか?
きっかけと期限が違います。換価の猶予は一時の納付で事業の継続が困難になるおそれがある場合で、納期限から6か月以内という期限があります。納税の猶予は、災害・盗難、本人や家族の病気や負傷、事業の廃業や休業、事業について著しい損失を受けたことなど、定められた事実に該当する場合の制度です。売上の急減も著しい損失に当たり得ます。
猶予が認められると延滞税はどうなりますか?
猶予期間中の延滞税は、全部または一部が免除されます。差押えや換価が止まるだけでなく、利息にあたる負担も軽くなります。申請しなければ、令和8年の割合で納期限の翌日から2か月まで年2.8%、それ以後は年9.1%がかかり続けます。
担保がないと申請できませんか?
原則は担保が必要ですが、猶予を受ける金額が100万円以下の場合、猶予期間が3か月以内の場合、担保として提供できる種類の財産がないといった事情がある場合は、担保の提供は不要です。
猶予はどのくらいの期間認められますか?
1年の範囲内で、財産や収支の状況に応じて、最も早く完納できると認められる期間に限られます。猶予期間中は各月に分割して納付します。期間内に完納できないやむを得ない理由がある場合、当初の期間が終わる前に申請すれば、合わせて最長2年以内の範囲で延長が認められることがあります。
申請が認められなかったらどうなりますか?
不許可の処分に対しては、国税通則法第75条により不服申立てができます。ただし申立てをしている間も延滞税は日数に応じてかかるため、並行して納付する資金を作る手立てを考えておく必要があります。