売掛金を現金化する4つの方法|売るか借りるか
更新日: 2026-09-19
この記事でわかること
- 売掛金を早く現金にする方法は、支払日の前倒し・ファクタリング・担保にした借入・でんさいの割引の4つです。
- 民法第466条第2項により、譲渡を禁じる特約があっても債権の譲渡そのものは効力を妨げられません。
- 流動資産担保融資保証制度(ABL保証)は保証限度額2億円、保証割合80%、保証料率は年0.68%です。
- 法人の売掛金の譲渡は、債権譲渡登記で債務者以外の第三者への対抗要件を備えられます。
- 買い戻しや自己資金での穴埋めを約束させるファクタリングは、貸金業に当たるおそれがあると金融庁は示しています。
目次
まず結論:売掛金を早く現金にする道は4つ
売掛金を入金日より前に現金へ変える方法は、大きく4つに整理できます。
1つ目は、取引先に支払日を早めてもらうこと。2つ目は売掛金をファクタリング会社に売ること。3つ目は、売掛金を担保にして金融機関から借りることです。そして4つ目が、受け取りがでんさいなら割り引いて資金にする方法になります。
4つは「入金が早まる」という結果こそ同じですが、中身は別物です。
売るのか、借りるのか。ここを取り違えると、費用の比べ方も、取引先への伝わり方も、使える公的制度も変わってしまいます。この記事では、方法ごとに根拠となる法律と公的な数値を並べ、どれを先に検討するかの順番まで示します。
なお、紙の手形を期日前に現金化したい場合は仕組みが異なります。手形を期日前に現金化する方法を先にお読みください。
仕組み:売掛金は「売れる財産」と法律が定めている
出発点は民法です。
民法第466条第1項は、債権は譲り渡すことができると定めています。売掛金は取引先に代金を請求できる権利、つまり債権ですから、原則として他人に売ることができます。
気になるのは、取引先との契約書に「この債権は譲渡できない」という条項がある場合でしょう。同条第2項は、そうした譲渡制限の意思表示があっても、債権の譲渡は効力を妨げられないと定めています。
ただし、話はそこで終わりません。
同条第3項により、特約を知っていたか、重大な過失で知らなかった譲受人に対しては、取引先は支払いを拒めます。さらに、元の売主に払ったことを理由に債務が消えたと主張することもできます。特約付きの売掛金を売るときは、買い手側が受け付けるかどうかが実務上の分かれ目になります。
もう一つの鍵が、民法第467条です。
債権を譲ったことは、譲渡人が債務者に通知するか、債務者が承諾しなければ、債務者にもほかの第三者にも主張できません。第三者に主張するには、その通知や承諾を確定日付のある証書で行う必要があります(同条第2項)。
ファクタリングで「2社間」「3社間」という言い方をするのは、この通知を取引先に出すかどうかの違いです。詳しくは2社間と3社間の違いで整理しています。
条件:法人なら債権譲渡登記という方法がある
取引先に通知を出さずに、第三者への対抗要件だけを備える方法もあります。
それが債権譲渡登記です。
法務省によると、登記をすれば、債務者以外の第三者との関係では民法第467条の確定日付のある通知があったものとみなされます。平成10年10月から運用されている、民法の特例です。
ここには条件が2つあります。
まず、登記できる譲渡人は法人に限られます。個人事業主の売掛金は、この制度の外です。次に、登記をしても債務者本人に対しては譲渡を主張できません。債務者に主張するには、登記事項証明書を交付して通知するか、債務者の承諾を得る必要があります。
つまり登記は、取引先に知らせないまま売るための「万能の鍵」ではありません。二重譲渡などに備えて、ほかの債権者との関係を固める手続きと考えるのが正確です。
法務省は、債務者が特定していない将来の債権も登記できると案内しています。登記を扱う窓口は、東京法務局の中野庁舎にある債権登録課です。
費用:公的な数値が出ているのは担保融資の保証料だけ
費用を比べたい気持ちは当然です。ところが、4つの方法のうち公的機関が数値を示しているのは1つだけです。
それが、売掛金を担保にした借入を信用保証協会が保証する流動資産担保融資保証制度(ABL保証)です。全国信用保証協会連合会が公表している条件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 担保 | 売掛債権と棚卸資産のみ(個別保証は売掛債権のみ) |
| 保証限度額 | 2億円(借入限度額は2億5千万円) |
| 保証割合 | 80%の部分保証 |
| 保証期間 | 根保証1年間/個別保証1年以内 |
| 保証人 | 不要 |
| 保証料率 | 借入極度額・借入金額に対し年0.68% |
保証料は年0.68%です。ここに金融機関の利息が上乗せされます。
利息の水準は金融機関ごとに決まるため、この記事では書いていません。
一方、ファクタリングの手数料や、でんさいの割引料には公的な相場の資料がありません。「◯%が相場」という数字をよく見かけますが、この記事では一次資料で確かめられないものは載せない方針です。見積もりは必ず複数の相手から書面で取り、同じ売掛金で比べてください。手数料の考え方はファクタリング手数料の相場で別に整理しています。
比較:4つの方法を「性質」と「取引先への伝わり方」で並べる
並べてみると、違いは値段より先に取引の性質に出ます。
| 方法 | 性質 | 取引先への連絡 | 公的な根拠・数値 |
|---|---|---|---|
| 支払日の前倒し | 契約条件の変更 | 直接お願いする | 取適法(令和8年1月1日施行) |
| ファクタリング | 売掛金を売る | 2社間は原則なし/3社間はあり | 民法466条・467条、金融庁の注意喚起 |
| 担保にして借りる | 借入 | 担保の設定方法による | ABL保証:2億円・80%・年0.68% |
| でんさいの割引 | 電子記録債権の譲渡 | 受け取りがでんさいの場合のみ | でんさいネット:分割して割引できる |
借入なら、決算書に負債として残ります。売るなら負債は増えませんが、その代わりに売掛金そのものが手元から消えます。どちらが良いかは、会社の状況で変わります。
判断の目安は単純です。
取引先と話ができる関係なら、まず前倒しの相談。金融機関と取引があり、1年以内の資金なら担保融資を検討します。どちらも間に合わないときに、ファクタリングを比べる。この順番なら、費用の重いものを最後に回せます。
でんさいは、受け取り方がすでにでんさいの場合にだけ使える方法です。でんさいネットは、分割して譲渡や割引ができると案内しており、必要な分だけ資金にできます。手形と違って印紙税も課されません。
手順:まず取引先に支払日の前倒しを頼む
第三者に払う手数料がかからないのは、取引先との交渉だけです。
最初にここから当たります。
- 売掛金の一覧を作る:取引先、金額、請求日、入金予定日を並べます
- 足りない額と日付を出す:いつまでに、いくら必要かを先に決めます
- 取引先に相談する:全額の前倒しが難しければ、一部だけでも頼みます
- 断られたら次の手段へ:担保融資、ファクタリングの順で比べます
取引先が大企業の場合、支払い方にもルールがあります。公正取引委員会によると、令和8年1月1日から下請法は中小受託取引適正化法(取適法)に改められました。
改正後は、対象となる取引で手形による支払いが禁止されています。電子記録債権やファクタリングでの支払いでも、支払期日までに満額の現金を得ることが難しいものは禁止の対象です。自社の取引が対象かどうかは、公正取引委員会の特設ページで確かめてください。
支払いのサイトを延ばされて困っている場合は、支払サイトを延ばされたときが役立ちます。入金そのものが遅れている場合は、売掛金の入金が遅いときの対処を先に読んでください。
注意点:買い戻す約束のある契約は、貸付けの疑いがある
ファクタリングを選ぶなら、契約書で確かめる点がはっきりしています。
金融庁は、次のような取引は貸金業に該当するおそれがあると示しています。
- 取引先から集金できなかったとき、売主が債権を買い戻すことになっている
- 集金できなかった分を、売主自身の資金で支払うことになっている
契約書の題名が「債権譲渡契約」でも、それだけで安心はできません。
金融庁は、ノンリコースの規定があるかといった形式だけでなく、経済的な実態で判断されるとしています。買取代金が債権額に比べて著しく低い場合は、偽装ファクタリングの疑いがあるとも注意を促しています。
貸金業を営むには、財務局か都道府県の登録が必要です。無登録の営業は刑事罰の対象です。また、年109.5%を超える利息の契約をした場合、その消費貸借契約は無効になります。
少しでも不安があれば、署名の前に弁護士など法律の専門家に相談してください。違法な業者の見分け方は、違法なファクタリングの見分け方にまとめています。
もう一つ、担保融資を使うときの注意です。ABL保証の保証期間は根保証で1年間、個別保証で1年以内です。長期の設備資金には向きません。売掛金が回収されるまでの、短い期間をつなぐ資金と考えてください。
今日やる一歩
今日は、売掛金の一覧表を1枚作ってください。
取引先、金額、入金予定日の3列で足ります。
そのうえで、いちばん入金が早い取引先に、支払日の前倒しを相談できるかを考えます。取引先との契約書に譲渡制限の条項があるかも、同じタイミングで確かめておきましょう。
担保融資を考えるなら、取引のある金融機関に「売掛金を担保にした借入はできるか」と聞くのが次の一歩です。保証協会の保証が付く場合、保証料は年0.68%。ここに利息を足した額が、ファクタリングの見積もりと比べる基準になります。
参考にした公的資料
- e-Gov法令検索「民法」(2026-09-19確認)
- 法務省「債権譲渡登記制度の概要」(2026-09-19確認)
- 一般社団法人 全国信用保証協会連合会「さまざまな保証制度」(2026-09-19確認)
- 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」(2026-09-19確認)
- 公正取引委員会「取適法」特設サイト(2026-09-19確認)
- 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」(2026-09-19確認)
- でんさいネット「でんさいとは」(2026-09-19確認)
本記事は制度の解説を目的としたもので、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。
よくある質問
取引先との契約に「債権の譲渡禁止」と書いてあっても、ファクタリングは使えますか?
民法第466条第2項は、当事者が債権の譲渡を禁止・制限する意思表示をしていても、債権の譲渡はその効力を妨げられないと定めています。ただし同条第3項により、その特約を知っていたか重大な過失で知らなかった譲受人に対しては、債務者は支払いを拒み、譲渡人への弁済を主張できます。特約がある場合は、契約書を持って弁護士など専門家に確認してから進めてください。
売掛金を担保にして銀行から借りる方法はありますか?
あります。全国信用保証協会連合会は、売掛債権や棚卸資産を担保に金融機関から借り入れる際の保証として、流動資産担保融資保証制度(ABL保証)を案内しています。保証限度額は2億円(借入限度額は2億5千万円)、保証割合80%の部分保証、保証料率は借入極度額・借入金額に対して年0.68%です。窓口はお近くの信用保証協会です。
債権譲渡登記をすれば、取引先に知られずに済みますか?
法務省によると、債権譲渡登記をすれば債務者以外の第三者との関係では確定日付のある証書による通知があったものとみなされます。一方、債務者に対しては、登記事項証明書を交付して通知をしてはじめて譲渡を主張できるとされています。また登記できる譲渡人は法人に限られます。個人事業主の売掛金は、この登記の対象になりません。
ファクタリングの契約で、気をつけるべき条項は何ですか?
金融庁は、集金できなかったときに売主が債権を買い戻す、または売主自身の資金で支払うとされている取引は、貸金業に該当するおそれがあると示しています。買取代金が債権額に比べて著しく低い場合も、偽装ファクタリングの疑いがあるとしています。契約書にノンリコースと書いてあるかという形式だけでなく、実態で判断される点にも注意してください。