支払サイトを延ばされたとき|取適法の60日ルール
更新日: 2026-08-07
この記事でわかること
- 2026年1月1日から下請法が取適法(トリテキ法)に変わったこと
- 受領日から起算して60日以内という支払期日のルール
- 取適法の対象取引では手形を交付する支払が一律に禁止されたこと
- 電子記録債権も60日以内に満額を受け取れなければ違反になること
- 延長を求められたときの伝え方と、資金をつなぐ方法
目次
取引先から、支払サイトを延ばしたいと言われた。
断れば取引を失うかもしれない。受ければ資金繰りが苦しくなる。
この判断が難しいのは、法律のルールを知らないまま交渉しているからです。
このページでは、2026年1月に変わったルールを確認したうえで、伝え方と資金の作り方を整理します。
まず結論:2026年1月にルールが変わりました
大きな変更があったばかりです。
令和8年(2026年)1月1日から、下請法は「取適法(トリテキ法)」に変わりました。
正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です(出典: 公正取引委員会「取適法・振興法」・2026年8月7日確認)。
変更点のうち、支払いに関わる主なものは3つです。
| 内容 | ルール |
|---|---|
| 支払期日 | 受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に定める |
| 手形払い | 取適法対象取引について一律に禁止 |
| でんさい等 | 支払期日を超える満期の設定は原則として支払遅延の禁止に該当 |
つまり「サイトを延ばしたい」という話には、法律上の上限があります。
仕組み:60日ルールの数え方
誤解が多いところです。
起算点は「受領した日」です。
締め日ではありません。請求書を出した日でもありません。納品・役務の提供を受けた日から数えます。
さらに重要な点があります。
「60日以内」ではなく「60日以内のできる限り短い期間内」と定められています。
60日いっぱいまで延ばしてよいという意味ではありません。
仕組み:手形が禁止されたことの意味
これが最も大きな変更です。
令和8年1月1日以降に発注される取適法対象取引については、手形を交付する支払は一律に禁止されることとなりました。
以前は、手形のサイトを短くするという方向で運用されていました。公正取引委員会は2024年10月に手形等のサイトの短縮についてを公表しています(2026年8月7日確認)。
今回は短縮ではなく、禁止です。
でんさいなら大丈夫、ではありません
支払期日を超える満期を設定した一括決済方式または電子記録債権を使用した支払は、原則として支払遅延の禁止に該当することとなりました。
つまり手段の名前ではなく、「いつ満額を受け取れるか」で判断されます。
納品日から60日以内に代金の満額を受け取れない形であれば、名前が何であっても違反にあたります。
手順:延長を求められたときの伝え方
ルールを知ったうえで、実際にどう言うかです。
「法律違反です」と切り出すのは、おすすめしません。関係が壊れると、次の発注がなくなります。
相談として持っていく
いつもお世話になっております。お支払いの件でご相談がございます。恐れ入りますが、当社は◯月◯日納品分について、資金繰りの都合上、受領日から60日を超えると立ち行かなくなります。取適法でも60日以内とされておりますので、現行のサイトでお願いできませんでしょうか。
「法律でこうなっている」を、責める材料ではなく相談の根拠として使ってください。
手形への変更を求められたとき
恐れ入ります。令和8年1月以降のお取引につきましては、手形でのお支払いが認められない扱いと承知しております。お振込みでお願いできますでしょうか。
相手の担当者が改正を把握していないことも実際にあります。その場合、公正取引委員会の資料を示すだけで解決することがあります。
条件:自社の取引が対象になるか
すべての取引が対象になるわけではありません。
取適法は、委託する側と受託する側の資本金などによって対象が決まります。
まず自社の取引が対象になるかを確認してください。
対象かどうかの判断は、公正取引委員会の資料で確認できます。分からない場合は、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口に問い合わせることができます。
対象外だった場合でも、交渉そのものは可能です。「うちの資金繰りではこの条件が限界です」という説明は、法律と関係なく成り立ちます。
手順:資金繰りの穴を埋める
交渉と並行して、実際の穴は埋める必要があります。
順番は費用の安い順です。
1. 公的融資(最も安い)
日本政策金融公庫の一般貸付を使います。運転資金の融資限度額は4,800万円、返済期間は5年以内(特に必要な場合7年以内)です。
出典は日本政策金融公庫「一般貸付」です(2026年8月7日確認)。
金利は年1〜3%程度で、他の手段とは一桁違います。
2. 自社が払う側の条件も見直す
受け取る側だけでなく、払う側の条件も同時に確認してください。
仕入先への支払いを1か月遅らせられれば、それだけで穴が埋まることがあります。
3. 売掛金の資金化
サイトが延びた分を、すぐに現金にする方法です。
これは借入ではなく、審査で主に見られるのは取引先の支払い能力です。
ただし費用は重くなります。サイトが延びた分を毎月資金化すると、手数料が固定費として積み上がります。
一時しのぎとして使い、その間に交渉と公的融資を進めてください。
注意点:受ける前に計算すること
延長を受け入れるかどうかを、感覚で決めないでください。
30日延びると、いくら足りなくなるかを計算します。
月の売上 ÷ 30日 × 延びる日数 = 追加で必要になる運転資金
月商600万円で30日延びるなら、600万円がまるまる追加で必要になります。
この額を用意できないなら、受け入れてはいけません。受け入れた時点で、次の月に必ず詰まります。
条件が合いそうであれば、見積もりを取るところからです。相談だけであれば費用はかかりません。
今日やる一歩
このページを閉じたら、最初にやることを1つだけ決めましょう。
- まだ返事をしていない——30日延びるといくら足りなくなるかを計算する
- 手形への変更を求められた——公正取引委員会の資料を確認し、相談として伝える
- すでに受け入れてしまった——公庫に電話し、運転資金の相談を始める
ルールを知っているかどうかで、交渉の結果は変わります。
参考にした公的資料
- 公正取引委員会「取適法・振興法」——令和8年1月1日施行・60日ルール・手形払いの禁止(2026年8月7日確認)
- 公正取引委員会「取適法について」——法律の正式名称と施行日(2026年8月7日確認)
- 公正取引委員会「手形等のサイトの短縮について」——改正前の運用(2026年8月7日確認)
- 日本政策金融公庫「一般貸付」——運転資金4,800万円・5年以内(2026年8月7日確認)
このページは、資金調達と取引条件の判断材料をお伝えするものです。特定のサービスの利用を勧めるものではありません。取適法の対象となるかどうかは、取引の内容と当事者の資本金等によって判断されます。個別の判断は公正取引委員会・中小企業庁の窓口へご確認ください。
よくある質問
支払サイトの延長を断ってもよいのですか?
取適法の対象となる取引であれば、支払期日は受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に定めることが必要とされています。60日を超える設定を求められた場合は、法律のルールを示して相談することができます。まずは自社の取引が対象になるかを確認してください。
手形での支払いに変えると言われました。応じるべきですか?
令和8年(2026年)1月1日以降に発注される取適法対象取引については、手形を交付する支払は一律に禁止されることとなりました。対象取引であれば、手形での支払いへの変更に応じる必要はありません。公正取引委員会の資料でご確認ください。
でんさい(電子記録債権)ならよいのですか?
支払期日を超える満期を設定した一括決済方式や電子記録債権による支払は、原則として支払遅延の禁止に該当することとなりました。納品日から60日以内に代金の満額を受け取れない場合は違反にあたります。手段の名前ではなく、いつ満額を受け取れるかで判断してください。
断りにくい相手のとき、どうすればよいですか?
断り方は交渉ですが、資金繰りの穴は別に埋める必要があります。まず公的融資に相談し、間に合わなければ売掛金の資金化を検討します。並行して、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口を使うこともできます。取引を守りながら相談する方法があります。