退職金が払えないとき|中退共という仕組みを知る
更新日: 2026-08-20
この記事でわかること
- 退職金は一度に大きな額が出ていく性質があること
- 中小企業退職金共済(中退共)という国の制度があること
- 中退共では退職金が機構から直接支払われること
- いま足りないときに、まず何をすべきか
- 支払いの優先順位の考え方
目次
長く勤めてくれた従業員が辞める。しかし退職金を用意できていない。
退職金は、一度に大きな額が出ていきます。
このページでは、いま足りないときの対処と、次から同じことが起きないようにする方法を整理します。
まず結論:まず本人に説明してください
資金の話の前に、これが最初です。
黙って期日を過ぎるのが、いちばん悪い結果になります。
就業規則や退職金規程で支払期限が定められている場合、その期限を守れないことは労務上の問題になります。
伝え方
長らくお勤めいただき、ありがとうございました。退職金についてご相談がございます。会社の資金繰りの都合で、規程どおりの期日にお支払いすることが難しい状況です。◯月◯日までに、まず◯◯円をお支払いし、残りを◯月までにお納めしたいと考えております。
「払えません」ではなく「いつ、いくら払えるか」を具体的に伝えてください。
誠実に説明すれば、待ってもらえることがあります。
仕組み:中退共という制度があります
次から同じことが起きないようにする仕組みです。
中小企業退職金共済(中退共)は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する国の制度です(参考: 中小企業退職金共済事業本部・2026年8月7日確認)。
仕組みはこうです。
- 事業主が毎月、掛金を納付する
- 従業員が退職したとき、機構から退職金が直接支払われる
ここが資金繰り上の決定的な違いです。
何が変わるか
| 方式 | 退職時の資金 |
|---|---|
| 自社で積み立て(またはしない) | 自社の口座から一度に出る |
| 中退共 | 機構から直接支払われる |
毎月の掛金という形で平準化されるため、退職の月に大きな穴が開きません。
すでに退職が決まっている従業員の分には間に合いませんが、今後のために意味があります。
比較:いま資金を作る手段
今回については、別の手段で乗り切る必要があります。費用の安い順です。
1. 分割で支払う相談(費用ゼロ)
前述のとおりです。まずここを試してください。
本人が納得すれば、費用をかけずに時間を作れます。
2. 公的融資(年1〜3%程度)
日本政策金融公庫の一般貸付を使います。運転資金の融資限度額は4,800万円、返済期間は5年以内(特に必要な場合7年以内)です。
出典は日本政策金融公庫「一般貸付」です(2026年8月7日確認)。
退職金の支払いは、使途として説明しやすい資金です。
退職金規程と、対象者の勤続年数が分かる資料を持っていってください。
3. 売掛金の資金化
間に合わないときの手段です。
これは借入ではなく、審査で主に見られるのは取引先の支払い能力です。
条件:支払いの優先順位
複数の支払いが重なっている場合の考え方です。
| 支払い | 優先度 | 理由 |
|---|---|---|
| 在職者の給与 | 最優先 | 遅れると人が辞め、事業が止まる |
| 社会保険料・税金 | 高い | ただし猶予の制度がある |
| 退職金 | 高い | 労働債権。ただし本人と相談できる |
| 仕入・外注費 | 中 | 相談できる相手なら相談する |
| その他の経費 | 低 | 後回しにできるものが多い |
在職者の給与を止めてまで退職金を払うのは、順序が逆です。
ただし退職金も労働債権であり、放置してよいものではありません。本人との合意を書面で残してください。
手順:次から起きないようにする
退職金は、いつか必ず発生する支出です。
予測できる支出で資金が詰まるのは、備えていなかったからです。
1. 誰がいつ退職しそうかを把握する
従業員の年齢と勤続年数を一覧にしてください。
定年が近い人がいれば、その年の資金繰りに退職金を組み込めます。
2. 規程の金額を計算する
いま全員が辞めたら、いくら必要になるか。
この額が、潜在的な債務です。把握していない会社は少なくありません。
3. 中退共への加入を検討する
毎月の掛金という形にすれば、退職の月に大きな穴が開きません。
掛金の額や要件は制度の資料でご確認ください。
注意点:中退共に入っている会社が陥る3つの落とし穴
すでに中退共へ加入している場合、資金繰りが苦しいときに間違えやすい点が3つあります。いずれも機構が公式に案内している内容です。
1. 掛金を止めると、制度そのものが解除されます
掛金を12か月以上継続して未納にすると、機構が退職金共済契約を解除します(出典: 中退共「掛金を未納にした場合はどうなりますか?」・2026年8月20日確認)。
正当な理由により納付しなかった月は、未納月数から除外される扱いになっています。払えない見込みが立った時点で、止める前に機構へ相談してください。
2. 積み立てた退職金からは借りられません
苦しいときに考えがちですが、これはできません。
中退共は退職金の貸付を行っていません。自分の退職金額の範囲内であっても、借入れはできない扱いです。出典は中退共のQ&Aです(2026年8月20日確認)。
ここが小規模企業共済との決定的な違いです。小規模企業共済には契約者貸付があり、掛金の範囲内で借りられます。
3. 会社が立て替えても、会社には戻りません
退職金は、退職した従業員本人に直接支払われます。事業主が立て替えて支払った場合でも、事業主に支払われることはありません。出典は中退共のQ&Aです(2026年8月20日確認)。
「先に会社から払っておいて、あとで中退共から回収する」という段取りは成り立ちません。二重に払うことになります。
参考:解約手当金は税の扱いが変わります
雇用関係が続いたまま契約を解除した場合に支払われるのは「解約手当金」です。退職金が退職手当等として扱われるのに対し、解約手当金は一時所得として扱われます。確定申告が必要になる場合があります。出典は中退共のQ&Aです(2026年8月20日確認)。
掛金助成を受けていた場合、解約手当金は助成金相当額か解約手当金額の3割のうち少ないほうが減額されます。
注意点:気をつけること
- 本人に説明せず期日を過ぎる——労務上の問題に発展します
- 合意を口頭だけで済ませる——支払いの時期と金額を書面に残してください
- 在職者の給与を削って払う——事業そのものが止まります
契約書に返済・利息・担保・保証人といった言葉が入っている場合、実質的には貸付にあたる可能性があります。金融庁も注意喚起を出しています。
種類:退職金以外にも出ていくもの
退職に伴って発生する支出は、退職金だけではありません。
見落としやすいものを挙げます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 未消化の有給休暇 | 退職前にまとめて取得されると、その分の人件費が発生 |
| 最終月の給与 | 日割りになることが多い |
| 社会保険料 | 退職月の扱いを確認してください |
| 引き継ぎの人件費 | 後任の採用・教育にかかる費用 |
退職金だけを見ていると、実際の支出額を読み違えます。
1人の退職で、退職金の1.2倍から1.5倍の資金が動くと考えておいてください。
手順:役員の退職金は別に考える
従業員の退職金とは、性質がまったく違います。
役員退職金は、金額が大きくなりやすい一方、支給には手続きが要ります。
株主総会の決議など、定款や法令に基づく手続きが必要です。
さらに税務上の扱いも従業員とは異なります。金額が過大と判断されると、損金に算入できない部分が生じることがあります。
小規模企業共済という制度
役員や個人事業主自身の退職金を準備する制度として、小規模企業共済があります。
中小企業基盤整備機構が運営する国の制度で、掛金を積み立てて廃業・退任のときに受け取る仕組みです。
従業員向けの中退共とは別の制度です。混同しないでください。
役員退職金を検討する場合は、必ず顧問税理士に相談してください。金額の妥当性と手続きの両方が問われます。
条件が合いそうであれば、見積もりを取るところからです。相談だけであれば費用はかかりません。
今日やる一歩
このページを閉じたら、最初にやることを1つだけ決めましょう。
- 支払期日が近い——本人に事情を説明し、いつ・いくら払えるかを伝える
- 資金が足りない——公庫に電話し、退職金の支払いを使途として相談する
- まだ余裕がある——従業員の年齢と勤続年数を一覧にし、規程の金額を計算する
退職金は、いつか必ず来る支出です。予測できる支出で詰まらないようにしてください。
参考にした公的資料
- 中小企業退職金共済事業本部——中退共制度の案内(2026年8月7日確認)
- 日本政策金融公庫「一般貸付」——運転資金4,800万円・5年以内(2026年8月7日確認)
- 金融庁「ファクタリングに関する注意喚起」——実質的な貸付への注意(2026年8月7日確認)
このページは、資金調達と公的制度の判断材料をお伝えするものです。特定のサービスの利用を勧めるものではありません。退職金の支払義務や労務上の取扱いは、就業規則・退職金規程と個別の事情によって判断されます。社会保険労務士・弁護士へご相談ください。
よくある質問
退職金を用意できていません。どうすればよいですか?
まず本人に事情を説明し、支払いの時期を相談してください。就業規則や退職金規程で支払期限が定められている場合、その期限を守れないことは労務上の問題になります。黙って期日を過ぎるのがいちばん悪い結果になります。そのうえで資金を作る手段を検討します。
中退共に積み立てた退職金から借入れはできますか?
できません。中退共は退職金の貸付を行っておらず、自分の退職金額の範囲内であっても借入れはできないと案内されています。契約者貸付がある小規模企業共済とは、この点が異なります。
掛金を払えない月が続くとどうなりますか?
掛金を12か月以上継続して未納にすると、機構が退職金共済契約を解除します。ただし正当な理由により納付しなかった月分は、契約解除の対象となる未納月数から除外されます。払えない見込みが立った時点で、止める前に機構へ相談してください。
会社が先に退職金を立て替えたら、あとで中退共から受け取れますか?
受け取れません。退職金は退職した従業員本人に直接支払われる仕組みで、事業主が立て替えて支払った場合でも事業主に支払われることはないと案内されています。立て替えると二重に負担することになります。
中退共とはどういう制度ですか?
中小企業退職金共済制度の略で、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する国の制度です。事業主が毎月掛金を納付し、従業員が退職したときは機構から退職金が直接支払われます。自社の資金から一度に出す形にならない点が、資金繰り上の大きな違いです。
いまから加入しても間に合いますか?
すでに退職が決まっている従業員の分には間に合いません。中退共は掛金を積み立てる制度だからです。ただし今後のために加入しておけば、次からは同じ問題が起きなくなります。今回は別の手段で乗り切り、並行して加入を検討してください。
退職金より先に払うべきものはありますか?
在職している従業員の給与は最優先です。給与が遅れると人が辞め、事業そのものが回らなくなります。退職金は本人と相談できる余地がある一方、給与の遅配は相談の余地が小さいためです。ただし退職金も労働債権であり、放置してよいものではありません。