賞与が払えないときの対処|法律上の義務と就業規則
更新日: 2026-08-07
この記事でわかること
- 労働基準法に、賞与を支給する義務の定めはないこと
- ただし就業規則に定めを置くと、契約上の義務が生じること
- 賞与は「毎月1回以上払う」義務の対象から、条文で除かれていること
- 減額や見送りを決めたときの、従業員への伝え方
- 来期に向けた就業規則の見直し方
目次
賞与の時期が近づいている。しかし、払える見通しが立たない。
従業員は期待しています。生活の計画も立てているはずです。
このページでは、法律上どうなっているかを確認し、どう伝えるかを説明します。
最初に、条文で義務の有無を確かめます。次に、自社の就業規則の確認方法を説明します。そのあと、伝え方をお示しします。最後に、来期に向けた見直しに触れます。
まず結論:法律上は賞与に支払い義務がない
まず、条文で確認します。
労働基準法には、賞与の支給を義務付ける規定はありません。賞与制度を設けるかどうかは、会社の裁量です。
さらに、給与との違いもはっきり書かれています。
労働基準法第24条第2項は、賃金を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うことを義務付けています。ただし、そのただし書きに次のようにあります。
ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(中略)については、この限りでない。
(出典: 労働基準法|e-Gov法令検索・2026年8月7日確認)
つまり賞与は、毎月払いの義務の対象から明文で除かれています。
給与とは扱いが違います。ここを正しく理解しておくことが、判断の出発点になります。
仕組み:就業規則しだいで義務が生じる
法律の話はここまでです。次に、自社の話を確認します。
就業規則や労働契約に賞与の定めを置いた場合、その定めに従う契約上の義務が生じます。
だから、まず自社の就業規則を出してください。
見るべきは、書き方です
書き方によって、判断の余地が変わります。
| 就業規則の書き方 | 判断の余地 |
|---|---|
| 「基本給の◯か月分を支給する」 | 具体的な義務になりやすい |
| 「◯月と◯月に支給する」 | 時期の義務が生じやすい |
| 「会社の業績等を勘案して支給することがある」 | 支給しない判断の余地が残る |
| 賞与の定めがない | 支給義務は生じにくい |
金額や計算方法が具体的に書かれているほど、義務は強くなります。
判断に迷う場合は、社会保険労務士へご相談ください。規定の解釈は個別の事情によって変わります。
文例:従業員への伝え方
ここが実務でいちばん重要なところです。
金額の大小より、伝え方のほうが影響します。
理由を言わずに減らされると、人は「隠されている」と感じます。逆に、事情を正直に説明されれば、多くの人は理解します。
伝えるときの3つの原則
- 支給日より前に、自分の口から伝える
- 数字で説明する——決算の状況、資金の見通し
- いつ戻す見込みかを言う——分からないなら「分からない」と正直に
そのまま使える文面
皆さんに報告があります。今期の賞与についてです。
結論から申し上げます。今回は◯か月分の予定でしたが、◯か月分に減額させていただきます。
理由を説明します。今期は売上こそ前年並みでしたが、◯◯の値上がりで原価が◯%上がりました。加えて、大口の入金が来期にずれ込んでいます。手元の資金で賞与を満額お支払いすると、来月以降の給与に影響が出る見込みです。
皆さんの給与を止めないことを最優先にした判断です。私の経営判断の責任です。
◯月の決算で状況を確認し、改善していれば期末に調整させていただきます。難しい場合も、必ずご報告します。
「給与を守るための判断だ」と言えるかどうかが分かれ目です。
賞与を無理に払って翌月の給与が遅れれば、失うものはもっと大きくなります。順番としては、給与が先です。
見送る場合
減額ではなく見送る場合も、伝え方は同じです。
ただし1点だけ加えてください。次の判断時期を明示することです。
次は◯月の中間決算の時点で、改めて判断いたします。そのときに必ずご報告します。
先が見えないことが、いちばん不安を生みます。
比較:資金を作る選択肢
そのうえで、可能なら払いたいという場合です。
判断の基準
先に確認してください。賞与のために手数料を払って資金を作るのは、慎重に判断すべきところです。
理由は2つあります。
1つ目。賞与は法律上の義務ではありません。給与や税金とは性質が違います。
2つ目。その手数料は、来月以降の資金繰りをさらに圧迫します。
賞与を払って翌月の給与が遅れるなら、本末転倒です。
それでも資金が要る場合
人材の流出を防ぐなど、経営判断として必要なこともあります。
その場合、取引先に出した請求書があれば、入金日を待たずに現金にできます。借入ではないため、審査で主に見られるのは自社ではなく取引先の支払い能力です。
手順:来期に向けて規定を見直す
今回のようなことを繰り返さないために、規定そのものを見直す方法があります。
業績連動の形にする
「基本給の◯か月分」と固定するのではなく、業績に応じて決まる形にします。
そうすれば、業績が悪い年に払えないという事態そのものが起きにくくなります。従業員にとっても、業績が良い年には多く受け取れる仕組みになります。
変更には手続きが要ります
就業規則の変更は、会社が一方的に決められるものではありません。
労働者に不利益となる変更には、合理性が求められます。手続きを誤ると、変更が無効と判断されることがあります。
必ず社会保険労務士に相談してから進めてください。
賞与の原資を先に分けておく
給与と同じ考え方です。毎月、賞与の見込み額を別口座へ移しておきます。
支給月に慌てなくて済みます。
注意点:支給しない場合に確認しておくこと
減額や見送りを決めたあとに、確認しておきたい点が3つあります。
1. 社会保険料の扱い
賞与を支給すると、社会保険料と源泉所得税がかかります。
逆に言えば、支給しなければその分の負担も生じません。賞与の額面だけでなく、会社が負担する社会保険料も含めて、いくら手元から出ていくかを計算してください。
想定より大きい金額になっているかもしれません。
2. 就業規則に書いてある支給日
支給日が具体的に定められている場合、その日を過ぎてから伝えるのは避けてください。
期日の前に伝えるかどうかで、受け取られ方がまったく違います。
3. 個別の事情がある従業員
住宅ローンや学費など、賞与を前提に計画している人がいます。
全体への説明とは別に、個別に相談を受ける場を作ってください。可能な範囲で配慮できることがあるかもしれません。
種類:代わりにできること
お金以外で、報いる方法もあります。
- 特別休暇を付与する
- 業績が回復したときの支給を、書面で約束する
- 決算賞与という形で、期末に改めて判断する
とくに3つ目は現実的です。決算の数字が固まってから判断できるため、無理のない範囲で支給できます。
「いまは払えないが、状況が変われば必ず報いる」という姿勢が伝わるかどうかが、人の残り方を左右します。
今日やる一歩
このページを閉じたら、最初にやることを1つだけ決めましょう。
- 支給日が近い——就業規則を出し、賞与の条文の書き方を確認する
- 減額を決めた——伝える場を設定する。支給日を過ぎてからでは遅くなります
- 来期に備えたい——社会保険労務士に、業績連動への変更が可能か相談する
いちばんしてはいけないのは、何も言わないまま支給日を迎えることです。
参考にした公的資料
- 労働基準法|e-Gov法令検索——第24条第2項ただし書き(賞与は毎月払いの対象外)(2026年8月7日確認)
- 金融庁「ファクタリングに関する注意喚起」——実質的な貸付への注意(2026年8月7日確認)
このページは、資金調達と関連制度の判断材料をお伝えするものです。特定のサービスの利用を勧めるものではありません。就業規則の解釈や変更の手続きについては、必ず社会保険労務士等の専門家へご相談ください。
よくある質問
賞与を払わないと法律違反になりますか?
労働基準法自体に、賞与の支給を義務付ける規定はありません。賞与制度を設けるかどうかは会社の裁量です。ただし就業規則や労働契約に賞与支給の定めを置いた場合は、その定めに従う契約上の義務が生じます。まず自社の就業規則がどう書かれているかを確認してください。
賞与も「毎月1回以上」払わなければならないのですか?
対象外です。労働基準法第24条第2項は賃金を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うことを義務付けていますが、ただし書きで「臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもの」を明文で除いています。したがって賞与はこの規定の対象になりません。
就業規則に金額まで書いてある場合はどうなりますか?
金額や計算方法が具体的に定められていると、その内容が契約上の義務になります。一方、「会社の業績等を勘案して支給することがある」といった書き方であれば、支給しない判断の余地が残ります。自社の規定を確認し、判断に迷う場合は社会保険労務士へご相談ください。
減額して払うのと、見送るのはどちらがよいですか?
一律には言えませんが、金額の大小より伝え方の影響が大きいところです。理由を説明せずに減らすと不信につながります。決算の状況、なぜその判断に至ったか、いつ戻す見込みかを具体的に説明できるなら、減額でも受け入れられることがあります。