資金繰り悪化の原因を3つの収支で見つける
更新日: 2026-08-20
この記事でわかること
- 原因探しは勘ではなく3つの収支区分で切り分けます
- 資金繰り表の様式は日本政策金融公庫が無料で配布
- 経常収支は本業の入りと出、赤字の起点を確認します
- 売掛金回収の遅れは60日以内という法定期日が基準
- 税金と社会保険料には換価の猶予という制度があります
目次
まず結論:原因は3つの収支のどこかに必ず出ます
資金繰りが苦しいと感じるとき、多くの経営者は原因を頭の中で数え上げようとします。売上が伸び悩んでいる、支払いが多い、そんな漠然とした言葉です。感覚で原因を探すと、対策も感覚的になってしまいます。
公的な資金繰り表は、お金の動きを経常収支・経常外収支・財務収支という3つの区分に分けています。資金繰りが悪化しているなら、原因はこの3つのどこかに必ず現れます。
まずは自社の数字をこの3区分に当てはめて、どこが赤字になっているかを確認することが、遠回りに見えて一番早い道です。
仕組み:公的な様式は、お金の動きを3つに分けています
日本政策金融公庫は、国民生活事業を利用する小規模事業者・個人事業主向けに、資金繰り表の様式を無料で配布しています[1]。様式には「資金繰り表」「資金繰り表(簡易版)」「資金繰り表(記入例)」の3種類があり、ダウンロードしてそのまま使うことができます。
様式の注記には、こう書かれています。「この書類は、お客さまのご商売の状況の確認に活用させていただきます」[1]。この様式が求めているのは、感覚での説明ではなく、区分ごとに整理された数字です。
様式の並びを見ると、まず前月繰越金(A)から始まります[2]。そこに経常収支の差引過不足(D)を足し、経常外収支(E)を足し、財務収支(F)を足すと、翌月繰越金(G)になります。この(A)から(G)までの流れそのものが、資金繰り悪化の原因を切り分ける地図です。どの区分を足したときに数字が沈むかを見れば、原因のありかがわかります。
資金繰り表を実際に作る手順は、こちらでも詳しく説明しています。資金繰り表の作り方|3か月先の不足額を出す手順
種類:経常収支が赤いときに疑うこと
経常収支は、本業の入りと出を表す区分です。様式の収入欄には、現金売上・売掛金回収・受取手形入金/割引・その他が並びます[2]。支出欄には、現金仕入・買掛金支払・手形決済・外注加工費・人件費・諸経費・支払利息が並びます。
この収入欄の合計(B)より支出欄の合計(C)が大きくなると、経常収支の差引過不足(D)はマイナスになります。たとえば売掛金回収の入金が遅れれば、(B)は伸び悩みます。一方で人件費や諸経費が先に膨らめば、(C)側が重くなります。
経常収支が赤字になっているときは、収入の項目と支出の項目を1行ずつ見比べることが出発点です。どの行が原因なのかを特定しないまま値上げや経費削減に走ると、的外れな対策になりかねません。
黒字なのに資金が足りなくなるケースについては、こちらの記事でも取り上げています。黒字なのに資金が足りない理由
制度:入金が遅い原因は、法律の期日から確かめます
売掛金回収の遅れは、自社の営業努力が足りないからだと決めつけがちですが、そこには法律で定められた期日があります。
中小受託取引適正化法では、代金の支払期日について「給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から60日以内で、かつ出来る限り短い期間内に定める義務」があるとされています[3]。この法律には、代金の支払遅延の禁止、買いたたきの禁止、協議に応じない一方的な代金決定の禁止という禁止行為も定められています。
なお、この法律の名称は令和8年1月1日に変わりました。公正取引委員会は「下請法・下請振興法が、取適法・振興法に変わりました」と告知しています[3]。名称が変わっても、支払期日のルールという骨格は同じです。
取引先からの入金が遅いと感じたら、まずこの期日を自社の請求と照らし合わせてみてください。回収が遅いのは、必ずしも自社の側の問題とは限りません。
売掛金の入金が遅いときの具体的な対処は、こちらにまとめています。売掛金の入金が遅いときの対処
種類:経常外収支と財務収支に原因があるとき
経常収支が黒字でも、資金繰り全体が苦しくなることがあります。原因は残りの2つの区分にあるかもしれません。
経常外収支は、経常外収入と経常外支出で構成されます[2]。本業以外の一時的な入出金がここに集まります。財務収支は、借入金(当公庫)や借入金による収入と、借入金返済(短期)・借入金返済(長期)という支出で構成されます。
本業の収支が黒字でも、設備投資や借入金の返済がこの区分で重くなれば、翌月繰越金(G)は減っていきます。経常収支だけを見て、うちは黒字だから大丈夫と判断するのは早計です。3つの区分すべてを足し合わせて、初めて資金繰りの実態が見えてきます。
注意点:税金と社会保険料の遅れは、別の問題を呼びます
経常外収支や財務収支の悪化が続くと、税金や社会保険料の支払いにもしわ寄せが及びます。ここで慌てて滞納すると、資金繰りとは別の問題を呼び込みます。
国税には、換価の猶予という制度があります[4]。「国税を一時に納付することにより事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある場合に、申請に基づき換価の猶予を受ける」ことができる仕組みです。提出時期は「納付すべき国税の納期限から6か月以内」と定められています。添付書類は「財産収支状況書」1部で、猶予を受けようとする金額が100万円を超える場合は「財産目録」及び「収支の明細書」も各1部必要です。手続きの根拠は国税徴収法第151条の2です。
厚生年金保険料等についても、同様の猶予制度があります[5]。日本年金機構は、換価の猶予と納付の猶予の2つを用意しています。換価の猶予を受ければ保険料等を分割納付でき、納付の猶予を受ければ一定期間、納付そのものが猶予されます。これらの猶予を受けずに納付期限を過ぎると督促状が送られ、さらに指定期限を過ぎると延滞金が発生することがあります。
税金を滞納していても資金調達の道が閉ざされるわけではありません。順番と注意点は、こちらの記事で解説しています。税金を滞納していても資金調達はできる?順番と注意点
手順:3か月分を並べて、どこが赤いかを見ます
原因の切り分けは難しい作業ではなく、過去3か月分の実績を資金繰り表の様式にそのまま転記するだけです[2]。
前月繰越金(A)から翌月繰越金(G)まで、3か月分を横に並べてみてください。経常収支の差引過不足(D)、経常外収支(E)、財務収支(F)という3つの数字を、月ごとに見比べます。どの区分がどの月にマイナスへ動いているかが、原因のありかです。
経営状態をより広い視点で確認したい場合は、経済産業省のローカルベンチマーク(通称ロカベン)も参考になります[6]。「企業の経営状態の把握、いわゆる『企業の健康診断』を行うツール」で、「『6つの指標』(財務面)、『商流・業務フロー』、『4つの視点』(非財務面)の3枚組のシート」です。無料で、自社の経営の現状把握や経営分析ができます。
今日やる一歩
資金繰り表の様式を、まず手元にダウンロードしてください[1]。過去3か月分の実績を、経常収支・経常外収支・財務収支の3区分に沿って書き写します。
どの区分の数字がマイナスになっているかを、3か月分並べて確認してください。もし税金や社会保険料の支払いが遅れそうな場合は、猶予制度の提出時期を先に確認しておくことをおすすめします[4][5]。原因のありかがわかれば、相談先も自然に絞られます。
参考にした公的資料
- 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 小規模事業者/個人事業主の方【国民生活事業】」
- 日本政策金融公庫「資金繰り表」様式(Excel)
- 中小企業庁「中小受託取引適正化法」
- 国税庁「G-9 換価の猶予の申請手続」
- 日本年金機構「厚生年金保険料等の猶予(換価の猶予・納付の猶予)」
- 経済産業省「ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)」
このページは資金調達の判断材料をお伝えするものであり、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。制度や条件は変わることがあります。実際のお手続きの前に、必ず各機関・各社の公式サイトでご確認ください。
よくある質問
資金繰り表はどこで手に入りますか?
日本政策金融公庫が「資金繰り表」「資金繰り表(簡易版)」「資金繰り表(記入例)」の様式を無料で公開しています。
経常収支・経常外収支・財務収支とは何ですか?
資金繰り表の様式が定める3つの区分で、経常収支は本業の入出金、経常外収支は一時的な入出金、財務収支は借入金の収入と返済を表します。
売掛金の入金が遅いのは違法ですか?
中小受託取引適正化法は、代金の支払期日を給付受領日から60日以内でできる限り短い期間内に定める義務を課しています。
国税や社会保険料を納められないときはどうすればよいですか?
国税には換価の猶予、社会保険料には換価の猶予・納付の猶予という制度があり、申請により分割納付や納付の猶予を受けられます。