資金繰りを改善する順番|入りを早め、出を遅らせる

更新日: 2026-08-20

この記事でわかること

  • 資金調達の前に、入りを早め出を遅らせる2方向がある
  • 支払期日は法律で60日以内と定められている
  • 60日超の手形等は指導の対象になった
  • 4つの打ち手を効果と難しさで比較する
  • ローカルベンチマークで自社の数字を1枚にまとめる
目次

資金繰りが厳しいとき、多くの経営者はまず「どこから借りるか」を考えます。ですが、借りる前に社内で点検できることが2つあります。

入りを早めることと、出を遅らせることです。このページでは、この2方向をどの順番で見ていくかを示します。特に出を遅らせる側には法律で決まっている上限があり、そこを知らずに動くと、意図せず違反に近づいてしまいます。

まず結論:調達の前に、入りを早め、出を遅らせます

資金繰りの改善は、外部からの調達より先に、社内でできることから手をつけるのが順番です。やることは2方向しかありません。入金を早めることと、支払いを遅らせることです。

この2つは対称に見えますが、実際は違います。入金を早める側は相手の合意が要る交渉ごとで、こちらの都合だけでは決まりません。一方で支払いを遅らせる側には、法律で定められた上限があります。60日という数字が軸になり、これを超えて延ばすことはできません。

まず全体の構造を押さえたうえで、この上限の中身を見ていきます。

仕組み:資金繰りは「入る日」と「出る日」のズレで決まります

資金繰りが苦しくなる理由は、多くの場合、売上が出ていないことではありません。入金される日と、支払う日がずれていることが原因です。

商品やサービスを提供してから、代金が実際に口座へ入るまでには時間がかかります。

その間にも、仕入れや人件費、家賃といった支払いは先に発生します。売上が伸びるほど、仕入れや外注の量も増えます。つまり売上が増えるほど、入金より先に出ていくお金が増える局面があるということです。ここを見誤ると、黒字であっても手元の現金が足りなくなります。

だからこそ、資金繰りの改善は「入る日」と「出る日」をカレンダーの上に並べるところから始めます。感覚ではなく、日付として可視化することが最初の一歩です。この構造をより詳しく知りたい方は、黒字なのに資金が足りない理由もあわせてご覧ください。

資金繰りは、入る日と出る日をカレンダーに置くところから始まります。

制度:支払期日は法律で60日以内と決まっています

出を遅らせる方向を考えるとき、最初に知っておくべきは支払期日の上限です。

中小企業庁は、中小受託取引適正化法について次のように説明しています。給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から60日以内で、かつ出来る限り短い期間内に定める義務があるとされています。(出典:中小企業庁「中小受託取引適正化法」)つまり、代金の支払期日は最長でも60日、しかもできる限り短くすることが求められています。

この法律は令和8年1月1日に施行が変わります。下請法・下請振興法という名称が、取適法・振興法に変わったことが公正取引委員会から公表されています。(出典:公正取引委員会「取適法・振興法」)あわせて、下請中小企業振興法は「受託中小企業振興法」という名称になります。改正法は令和7年5月16日に成立し、同月23日に公布され、令和8年1月1日から施行されると中小企業庁が案内しています。(出典:中小企業庁「受託中小企業振興法」

ここで、読者の立場に置き換えます。もし自社が仕事を発注する側、つまり委託する側にあたる場合、支払いサイトを60日を超えて延ばすことはできません。「出を遅らせる」という打ち手を検討するときは、まずこの上限の内側で考える必要があります。

取適法の60日ルールを詳しく読む

制度:60日を超える手形等は、指導の対象になりました

支払いを先送りする手段として、手形が使われることがあります。ですが、この方法は以前より使いにくくなっています。

公正取引委員会は、サイト(手形期間または決済期間)が60日を超える長期の手形等を交付した場合について、次のように示しています。下請代金支払遅延等防止法の割引困難な手形の交付等に該当するおそれがあるとして、その親事業者に対し、指導する方針を公表したということです。(出典:公正取引委員会「手形等のサイトの短縮について」)この新たな指導基準等の運用は、令和6年11月1日以降に開始されています。

つまり、手形の期日を長く設定して支払いを実質的に先送りするという方法は、制度の面から難しくなったということです。出を遅らせる打ち手を考える際は、手形の長期化ではなく、60日以内という枠組みの中で見直すことになります。

手形を期日前に現金化する方法を見る

比較:4つの打ち手を、効果と難しさで並べます

ここまでの制度を踏まえ、社内でできる打ち手を4つ並べます。それぞれ、効果が出るまでの時間と、相手の合意が必要かどうかが異なります。数字や割合はここでは示しません。自社の状況によって差が大きいためです。

①入金サイトの短縮を交渉する。取引先に支払いを早めてもらう交渉です。相手の合意が前提になるため、すぐには決まりませんが、実現すれば資金繰りへの効果は直接的です。

②支払サイトを見直す。先に見たとおり、上限は60日です。この範囲内で、支払いのタイミングを整理し直すことはできます。ただしこちらも一方的には決められず、取引先との合意が前提になります。

③在庫を減らす。仕入れた在庫は、現金が形を変えて棚に置かれている状態です。過剰な在庫を見直すことは社内だけで判断でき、相手の合意を必要としませんが、効果が出るまでには在庫の回転を待つ時間がかかります。

④固定費を見直す。契約の見直しや解約が絡む場合は、相手との調整が必要になることもあります。ただし多くは社内の判断だけで着手でき、比較的早く手をつけられる打ち手です。

在庫は、現金が形を変えて棚に置かれている状態です。

この4つのうち、②の支払サイトの見直しについては、逆の立場もあります。つまり自社が支払われる側で支払いを延ばされた場合の対処です。くわしくは支払サイトを延ばされたとき|取適法の60日ルールにまとめています。また、①の入金を早める交渉がうまくいかないときの対処は、売掛金の入金が遅いときの対処をご覧ください。

社内でできることをやり切ってもなお資金が足りない場合は、外部調達を検討する段階に入ります。その選択肢の一つとして、ファクタリングとは?借金との違いを一から解説もあわせてご確認ください。

手順:自社の数字を1枚にまとめます

4つの打ち手のうち、どれから着手すべきかを判断するには、自社の数字を見える化できる公的なツールを使うのが近道です。

経済産業省が公表しているローカルベンチマーク(通称:ロカベン)です。企業の経営状態の把握、いわゆる「企業の健康診断」を行うツールとされています。(出典:経済産業省「ローカルベンチマーク」財務面の「6つの指標」、商流・業務フロー、非財務面の「4つの視点」という3枚組のシートで構成されています。無料で自社の経営の現状把握や経営分析ができるほか、各種補助金等の申請にも活用されているとされています。

自社の数字を1枚にまとめると、どこが詰まっているかが見えます。

配布されているシートは、2022年度版が最新のものとして案内されています。Excel形式で、容量は639KBとされています。(出典:経済産業省「ローカルベンチマークシート」)なお、日本標準産業分類の改定(令和6年4月1日施行)にともない、ローカルベンチマークの業種分類の見直しが行われました。

時期は2024年4月1日です。ダウンロードする際は、この見直し後のものを使うことになります。まずはこのシートを開き、自社の数字を1枚に落とし込むところから始めてください。

感覚で「厳しい」と捉えるのと、数字で「どこが詰まっているか」を見るのとでは、次に打つ手の精度が変わります。

注意点:やってはいけない「出の遅らせ方」

出を遅らせる打ち手には、やってはいけない方法があります。それは、相手の合意なく一方的に支払いを遅らせることです。

中小企業庁が示す禁止行為には、代金の支払遅延の禁止が含まれています。(出典:中小企業庁「中小受託取引適正化法」)加えて、買いたたきの禁止と、協議に応じない一方的な代金決定の禁止も禁止行為として挙げられています。公正取引委員会も、協議に応じない一方的な価格決定の禁止と買いたたきについて注意を呼びかけています。(出典:公正取引委員会「取適法・振興法」

つまり、資金繰りが厳しいからといって、取引先への支払いを断りなく先延ばしにすることは許されません。これは④の固定費や②の支払サイトを見直す際にも共通する線引きです。相手の合意を得ずに延ばさないということを、社内での方針として明確にしておいてください。交渉と一方的な先延ばしは、まったく別のものです。

キャッシュフローの改善を読む

今日やる一歩

最後に、今日から着手できる一歩を3つ挙げます。

1つ目は、入る日と出る日を1枚の紙にまとめることです。ローカルベンチマークのシートを使ってもかまいません。まずは可視化することが出発点です。

2つ目は、現在の支払期日を数えることです。給付を受領した日から数えて何日になっているか、60日以内におさまっているかを確認してください。

3つ目は、交渉する相手を1社だけ決めることです。入金サイトの短縮でも、支払サイトの見直しでも構いません。一度に全社と交渉しようとせず、まず1社から始めることで、話が前に進みやすくなります。

参考にした公的資料

このページは資金調達の判断材料をお伝えするものであり、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。制度や条件は変わることがあります。実際のお手続きの前に、必ず各機関・各社の公式サイトでご確認ください。

よくある質問

資金繰りを改善するには、まず何をすればよいですか?

外部から借りる前に、入金を早める方向と支払いを遅らせる方向の2つを社内で点検します。ただし支払いを遅らせる側には法律上の上限があり、無制限には延ばせません。

取引先への支払いは、自由に遅らせてよいのですか?

自由には遅らせられません。中小受託取引適正化法では、給付を受領した日から60日以内で、かつ出来る限り短い期間内に支払期日を定める義務があります。

手形で支払いを先延ばしにするのは問題ないですか?

60日を超える長期の手形等は割引困難な手形の交付等に該当するおそれがあり、令和6年11月1日以降、親事業者への指導方針が公正取引委員会から示されています。

ローカルベンチマークとは何ですか?

経済産業省が公表している企業の健康診断ツールで、財務面の指標と商流・業務フロー、非財務面の視点をまとめた3枚組のシートです。Excel形式で無料配布されています。

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