訪問看護の資金繰り|入金は約2か月後、返戻で遅れる
更新日: 2026-08-07
この記事でわかること
- 医療保険と介護保険で請求先が分かれること(支払基金と国保連)
- 入金はおおむね2か月後で、その間ずっと人件費を立て替えていること
- 返戻が出ると入金がさらに1か月以上ずれること
- 福祉医療機構(WAM)の融資という、この業種だけが使える制度
- 給与日から逆算した、10日前・7日前・5日前の段取り
目次
利用者の数は増えているのに、通帳の残高が増えない。訪問看護ステーションの資金繰りは、経営の巧拙ではなく報酬が入るまでの時間で決まります。このページは、その時間差を具体的に埋める方法を整理したものです。
最初に、入金の日程を正確に押さえます。次に、返戻が出たときに何が起きるかを説明します。そのうえで、費用の安い順に打ち手を並べ、最後に人件費の支払いに間に合わせる方法をご案内します。
仕組み:入金の日程を正確に押さえる
打ち手を考える前に、いつお金が入るのかを日付で把握しておく必要があります。ここが曖昧だと、資金繰り表そのものが作れません。
訪問看護は請求先が3つに分かれます。まずここを整理します。
| 保険の種類 | 請求先 |
|---|---|
| 医療保険(協会けんぽ・健康保険組合など被用者保険) | 社会保険診療報酬支払基金 |
| 医療保険(国民健康保険・後期高齢者医療) | 国民健康保険団体連合会 |
| 介護保険(訪問看護費) | 国民健康保険団体連合会 |
(出典: 社会保険診療報酬支払基金、群馬県国保連合会の案内・いずれも2026年8月7日確認)
そして日程です。介護給付費は、サービス提供月の翌月10日ごろまでに請求し、支払はその翌月末ごろになります。国保連合会が公表している日程表では、たとえば4月提出分(3月サービス提供分)の提出締切が4月10日17時と示されています。支払日は5月29日です。(出典: 岩手県国保連合会「提出締切日時・支払日程表」・2026年8月7日確認)
医療保険分もほぼ同じ間隔です。支払基金の日程では、診療月のおおむね2か月後が医療機関への支払予定日となっています(出典: 支払基金「支払予定日」・2026年8月7日確認)。
つまり3月に提供したサービスの入金は5月末。その間の2か月分、給与と家賃と車両費を立て替え続けることになります。これが訪問看護の資金繰りの正体です。
時間:返戻が出ると入金はさらに遅れる
日程どおりに入るなら、まだ計画は立てられます。問題は、そこに返戻が重なったときです。
返戻になった請求は、その月の審査では支払対象外になります。エラーの理由を確認して翌月以降に再請求し、その審査月の翌月に支払われる流れです(出典: 京都府国保連合会の資料・2026年8月7日確認)。
したがって、通常より最低でも1か月以上、入金が後ろへずれます。要介護度の認定変更待ちなど理由によっては、複数月ずれることもあります。
ここで押さえていただきたいのは、返戻の金額が大きい月ほど資金繰りが急に崩れるということです。売上は立っているのに現金だけが入らない状態になるため、帳簿を見ているだけでは危険に気づけません。
対策は2つあります。
1つは、返戻が出た時点でその金額を資金繰り表の入金予定から外すことです。当月の入金として残したままにすると、月末に足りない事態が起きます。
もう1つは、あらかじめ返戻を見込んだ余裕を持っておくことです。月商の1.5か月分から2か月分の現預金があると、返戻が重なっても支払いを止めずに済みます。
とはいえ、その余裕を作るまでが大変です。ここから、実際の打ち手を費用の安い順に並べます。
比較:打ち手を費用の安い順に並べる
まず全体を見渡してください。上にあるものほど費用が安く、下にあるものほど早く現金になります。
| 打ち手 | 費用の目安 | 入金まで |
|---|---|---|
| WAM(福祉医療機構)の融資 | 制度により無利子の枠あり | 数週間〜 |
| 日本政策金融公庫の融資 | 年1〜3%程度 | 2週間〜1か月 |
| 支払条件の交渉・リスケ | 原則ゼロ | 即日〜数週間 |
| 介護報酬・診療報酬債権の資金化 | 1回あたり1〜20% | 最短数時間〜数日 |
それぞれ、どういうときに向くかを説明します。
WAM(福祉医療機構)の融資
福祉・医療の事業者だけが使える制度です。ここを知らずに民間の借入だけで考えている方が少なくありません。
独立行政法人福祉医療機構は、物価高騰の影響を受けた社会福祉施設・医療施設等に向けて、経営資金または長期運転資金の融資制度を設けています。融資期間は10年以内、据置期間は基本1年6か月以内で、職員の処遇改善の取組がある場合は2年以内まで延ばせます。
さらに、職員の処遇改善を実施している施設については、事業収益2か月分を上限に2年間無利子となる優遇があります。(出典: 福祉医療機構「経営資金・長期運転資金のごあんない」・2026年8月7日確認)
据置期間があるという点が、この制度の資金繰り上の価値です。借りてすぐ元金の返済が始まるわけではないため、立て直しの時間が取れます。
日本政策金融公庫
WAMと並行して当たれます。訪問看護の開業や増員のための設備資金であれば、公庫のほうが話が早いこともあります。
いずれの公的融資も、申込から入金まで早くて2週間、通常は1か月前後かかります。「これから苦しくなりそうだ」と気づいた段階で動く手段だとお考えください。
支払いを遅らせる交渉
費用がまったくかからない方法です。リース料の支払期日を変えてもらう、車両の保険料を分割にしてもらうなど、出ていくお金を後ろへずらします。
税金や社会保険料についても、法律上の猶予制度があります。切り出し方は次のページに文例つきでまとめました。
報酬債権の資金化
給与の支払日に間に合わない、という段階まで来ている場合です。
国保連合会や支払基金への請求債権は、買い取ってもらって入金日より前に現金化できます。借入ではないため、審査で主に見られるのは自社の決算ではなく支払う側の信用力です。
訪問看護にとって有利なのは、この点です。支払う側が公的機関のため、貸し倒れのリスクがきわめて低いと判断されます。決算が赤字でも、開設から間もなくても、通りやすいのはこの構造によります。
ただし費用は手段の中で最も重くなります。手数料10%を、入金まで60日の債権に使えば、年利に直しておよそ60%相当です。毎月続けると資金繰りは確実に悪化します。
計算の考え方は次のページで詳しく説明しています。
手順:給与日から逆算して段取りする
訪問看護で最も動かせないのが給与の支払日です。看護師の確保が事業の生命線である以上、ここを遅らせる選択肢はありません。
そこで、給与日から逆算した段取りをお示しします。
| 給与日までの日数 | やること |
|---|---|
| 10日前 | 当月の入金予定を確定し、不足額を計算する |
| 7日前 | 不足があれば債権の資金化を2社に見積依頼 |
| 5日前 | 見積を比較し、振込額(率ではなく金額)で決める |
| 3日前 | 契約・書類提出。入金日を書面で確認する |
7日前の段階で動き出せていれば、選ぶ余裕があります。3日前になると1社に絞らざるを得ず、条件を比べられません。
不足額の計算は難しく考えないでください。「当月に確実に入る額」から「当月に必ず出る額」を引くだけです。確実に入る額には、返戻になった分を含めない——これだけ守れば精度は十分です。
注意点:やってはいけないこと
最後に、避けていただきたいものを挙げます。急いでいるときほど近づいてくるものです。
- 「審査なし」をうたう業者——貸金業の登録がない違法な貸付の可能性があります
- 契約書に返済・利息・担保・保証人と書かれているもの——債権の売買ではなく貸付になっています
- 職員の給与から天引きして立て替えさせる——労働基準法上の問題になります
金融庁も、実質的な貸付にあたるものについて注意喚起を出しています。見分け方は次のページにまとめました。
条件が合いそうであれば、見積もりを取るところからです。相談だけであれば費用はかかりません。
今日やる一歩
このページを閉じたあと、最初にやることを1つだけ決めましょう。
- 今月の給与が厳しい——直近の請求額を確認し、資金化の見積もりを2社に依頼する
- 返戻が続いている——返戻理由を一覧にし、当月の入金予定から該当額を外す
- いまは回っている——福祉医療機構の融資制度のページを開き、対象になるか確認する
3つ目を今日やっておくと、来年の資金繰りが変わります。
参考にした公的資料
- 岩手県国保連合会「提出締切日時・支払日程表」——介護給付費の請求締切と支払日(2026年8月7日確認)
- 社会保険診療報酬支払基金「診療報酬等の支払予定日」——医療機関への支払予定日(2026年8月7日確認)
- 群馬県国民健康保険団体連合会「訪問看護療養費(医療保険)」——請求先の区分(2026年8月7日確認)
- 京都府国民健康保険団体連合会 介護保険課資料——返戻分は当月支払対象外となる旨(2026年8月7日確認)
- 福祉医療機構(WAM)「経営資金又は長期運転資金のごあんない」——融資期間・据置期間・無利子の優遇(2026年8月7日確認)
- 金融庁「ファクタリングに関する注意喚起」——実質的な貸付への注意(2026年8月7日確認)
このページは資金調達と関連制度の判断材料をお伝えするものであり、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。日程や制度の内容は年度や地域によって異なる場合があります。実際のお手続きの前に、管轄の国保連合会・支払基金および各機関の公式の案内でご確認ください。
よくある質問
訪問看護療養費の請求先はどこになりますか?
医療保険分は加入している保険によって分かれます。協会けんぽや健康保険組合などの被用者保険は社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険と後期高齢者医療は国民健康保険団体連合会が請求先です。介護保険分の訪問看護費は、すべて国保連合会が請求先になります。
請求してから入金まで、どれくらいかかりますか?
おおむね2か月です。介護給付費については、国保連合会の日程表でサービス提供月の翌月10日ごろまでに請求し、支払はその翌月末ごろとされています。医療保険分も同様で、支払基金の日程では診療月のおおむね2か月後が医療機関への支払予定日となっています。
返戻になると、入金はどれくらい遅れますか?
返戻となった請求は、その月の審査では支払対象外になります。エラー理由を確認して翌月以降に再請求し、その審査月の翌月に支払われるため、通常より最低でも1か月以上遅れます。認定変更待ちなど理由によっては複数月ずれることもあります。
介護・医療の事業者が使える公的な融資はありますか?
独立行政法人福祉医療機構(WAM)の融資があります。物価高騰の影響を受けた社会福祉施設・医療施設等に向けた経営資金・長期運転資金の制度があり、融資期間は10年以内、据置期間は基本1年6か月以内です。職員の処遇改善に取り組む施設には無利子となる優遇も設けられています。