源泉所得税が納付できないとき|納期の特例という罠
更新日: 2026-08-07
この記事でわかること
- 納期の特例を使うと、なぜ7月と1月に資金が詰まるのか
- 納付期限は7月10日と翌年1月20日で、対象は給与の支給人員が常時10人未満であること
- 税務署への電話と窓口で、そのまま使える言い方
- 来期に同じことを起こさないための、別口座での管理
- 納期の特例をやめて毎月納付に戻すという選択肢
目次
7月10日、または1月20日。この日付を見て胃が痛くなる方は少なくないと思います。源泉所得税は従業員から預かったお金であるだけに、他の支払いとは重さが違います。
このページでは、最初に納期の特例という制度がなぜ資金繰りの罠になるのかを説明します。次に、納付できない見込みが立ったときの手順をお示しします。そのあとで来期に同じことを起こさない仕組みをご案内し、最後に資金の作り方に触れます。
仕組み:なぜ7月と1月に詰まるのか
まず、多くの会社が同じ月に苦しくなる理由を確認します。原因は制度そのものではなく、制度の使い方にあります。
源泉所得税には納期の特例という仕組みがあります。給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者は、申請することで毎月の納付を年2回にまとめられます。
- 1月から6月までに源泉徴収した分 → 7月10日まで
- 7月から12月までに源泉徴収した分 → 翌年1月20日まで
(出典: 国税庁「納付期限と納期の特例」・2026年8月7日確認)
事務は確実に楽になります。問題はお金の見え方です。
毎月納付していれば、給与から天引きした分は翌月に出ていきます。手元には残りません。ところが納期の特例を使うと、半年分が口座に積み上がったまま、あたかも自社の資金であるかのように見えます。
そして資金繰りが苦しいとき、その現金は仕入や給与に回ります。悪意はなく、通帳の残高を見て「まだある」と判断した結果です。
半年後、7月10日が来ます。半年分が一度に出ていきます。
これが、納期の特例を使っている会社が7月と1月に詰まる仕組みです。制度が悪いのではなく、預かった分を別に管理していなかったことが原因です。
手順:納付できない見込みが立ったとき
では、実際に間に合いそうにないときにどうするか。順番があります。
期限より前に税務署へ相談する
これが最優先です。源泉所得税は従業員から預かったお金であるため、税務署の対応は他の税目より厳しくなる傾向があります。だからこそ、黙って期限を過ぎるのと、事前に相談するのとでは扱いが変わります。
国税を一時に納付することが困難な場合には、換価の猶予や納税の猶予といった制度があります(出典: 国税庁「換価の猶予の申請手続」・2026年8月7日確認)。
換価の猶予が認められると、分割での納付が可能になり、財産の差押えや換価が猶予されます。申請には期限があるため、放置していると使えなくなります。
電話での切り出し方
窓口で手が止まらないよう、実際の言葉をお示しします。
◯◯株式会社の◯◯と申します。源泉所得税の納付についてご相談させてください。 ◯月◯日期限の納付分について、一括での納付が難しい見込みです。分割での納付をご相談したく、伺う日をいただけますでしょうか。
伝えるのは「納められない」ではなく、「一括は難しいが、納める意思と計画がある」ということです。猶予の制度は、納める意思のある事業者のために用意されているからです。
来所するときは、次のように数字を出します。
納付が必要な額は◯◯円です。まず今月◯◯円を納め、以後は毎月◯◯円ずつ、◯か月で完納する計画でおります。◯月には◯◯社から◯◯円の入金が確定しておりますので、その月は増額いたします。裏づけとして資金繰り表をお持ちしました。
金額をあいまいにしたまま「できる限り納めます」と答えてしまうと、窓口は判断のしようがありません。月々の額と完納までの期間を、自分の側から示してください。
持っていくもの
- 決算書2期分(1期分でも構いません)
- 最新の試算表
- 向こう6か月の資金繰り表
- 預金通帳(直近まで記帳したもの)
- 納付書または納付すべき額のわかる資料
このうち資金繰り表は、その場でいちばん見られる書類です。形式は自由で、月ごとの入金・支払いと月末残高がわかれば十分です。入金の欄には、確定しているものだけを書いてください。
注意点:来期に同じことを起こさない
今回をしのいでも、半年後にまた同じ日が来ます。ここで仕組みを変えておきます。
預かった分を別口座に移す
いちばん効く方法です。給与を支払った日に、源泉徴収した額をそのまま別の口座へ移してください。
手間は月に5分です。それだけで、7月と1月の納付が「すでに用意されているお金を動かすだけ」になります。
この口座からは絶対に引き出さないと決めてください。運転資金が足りないときに手を出せる場所に置いておくと、意味がなくなります。
納期の特例をやめるという選択肢
別口座での管理が続かない場合、毎月納付に戻すという判断もあります。
事務は増えますが、資金繰りの面では毎月の納付のほうが安全です。半年分がまとまって出ていく怖さがなくなり、月々の資金繰り表にも正しく反映されます。
要件に該当しなくなった場合の届出もあるため、変更を検討される際は所轄の税務署にご確認ください。
資金繰り表に「7月」と「1月」を先に書き込む
作った資金繰り表に、納付予定額をあらかじめ記入しておいてください。半年先の支出として見えていれば、そこに向けて手を打てます。
比較:資金を作る
相談と並行して、資金そのものを用意する必要がある場合です。費用の安い順に並べます。
まず、借りずに済ませられないかを確認します。仕入先への支払いを1か月待ってもらう、銀行への返済を一時的に減らしてもらうといった交渉には費用がかかりません。
時間が2週間以上あるなら公的融資です。金利は年1〜3%程度で、他の手段とは一桁違います。ただし税金の滞納があると審査は厳しくなります。だからこそ、猶予の手続きを先に済ませておくことに意味があります。
どうしても間に合わない場合、取引先に出した請求書があれば、買い取ってもらって入金日より前に現金化できます。借入ではなく、審査の中心は取引先の支払い能力です。税金の滞納がそのまま審査落ちに直結しないのは、この仕組みのためです。
ただし、順番を誤らないでください。手数料のかかる資金で納税を片づけるのは、費用の面では最も分の悪いやり方です。使うとすれば、差押えが目前に迫り、時間で追い詰められた場合に限られます。第一の相談先はあくまで税務署です。
今日やる一歩
このページを閉じたあと、最初にやることを1つだけ決めましょう。
- 期限が近い——所轄の税務署に電話し、相談の予約を取る
- 今回は間に合う——次回の納付額を計算し、資金繰り表の該当月に書き込む
- 再発を防ぎたい——別口座を1つ作り、次の給与日から源泉徴収分を移す
3つ目を今日始めれば、半年後のこの日は何も起きません。
参考にした公的資料
- 国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」——納期の特例の対象と納付期限(2026年8月7日確認)
- 国税庁「A2-8 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」——申請の手続き(2026年8月7日確認)
- 国税庁「換価の猶予の申請手続」——換価の猶予・納税の猶予(2026年8月7日確認)
- 金融庁「ファクタリングに関する注意喚起」——実質的な貸付への注意(2026年8月7日確認)
このページは資金調達と関連制度の判断材料をお伝えするものであり、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。税額の計算や納付の手続き、猶予制度の適用については、必ず所轄の税務署または顧問税理士へご確認ください。制度の内容は変わることがあります。
よくある質問
納期の特例とは何ですか?
源泉徴収した所得税を、毎月ではなく年2回にまとめて納付できる制度です。給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者が対象で、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出する必要があります。1月から6月までに源泉徴収した分は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した分は翌年1月20日が納付期限になります。
納期の特例を使うと、なぜ資金繰りが苦しくなるのですか?
毎月の納付がなくなるぶん、手元に現金が残っているように見えるためです。半年分をまとめて預かっている状態なので、その資金を運転資金に使ってしまうと、7月と1月に一度に大きな支出が発生します。制度そのものは有利ですが、預かった分を別に管理していないと期限で詰まります。
納付が遅れるとどうなりますか?
延滞税に加えて不納付加算税がかかります。また源泉所得税は従業員の給与から預かっているお金であるため、税務署の対応は他の税目より厳しくなる傾向があります。納付できない見込みが立った時点で、期限より前に所轄の税務署へ相談してください。
分割で納付することはできますか?
一時に納付することが困難な場合、国税には換価の猶予や納税の猶予といった制度があります。換価の猶予は納期限から6か月以内に申請するなどの要件があり、認められると分割での納付が可能になり、財産の差押えや換価が猶予されます。要件や手続きは所轄の税務署にご確認ください。