給与の遅配が起きたとき|制度で決まること
更新日: 2026-09-05
この記事でわかること
- 遅配そのものと、倒産に伴う未払いは制度上まったく別に扱われるため、まず自社がどちらかを分けます。
- 未払賃金立替払制度で立替払される金額は、未払賃金総額の100分の80の額です。
- 立替払の対象となる未払賃金総額には、退職日の年齢による限度額が設けられています。
- 立替払の請求は、決定日や認定日の翌日から起算して2年以内に行う必要があります。
- 未払賃金立替払相談コーナーと労働基準監督署が、公的な相談先として案内されています。
目次
まず結論:遅配と倒産は、制度の上では別ものです
給与の支払日が過ぎた。それだけで、頭の中は真っ白になります。
ただ、制度の側から見ると、話は整理できます。遅配が起きている状態と、倒産に伴って賃金が支払われないまま退職した状態は、まったく別に扱われるからです。
国のセーフティーネットとして用意されているのは、後者に対する仕組みです。未払賃金立替払制度といいます。企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、未払賃金の一部を政府が事業主に代わって立替払する制度だと説明されています。
つまり、いま支払いが遅れているだけの段階では、この制度は動きません。動く条件も、支払われる割合も、請求できる期限も、それぞれ数字で決まっています。
先に知っておくべきは、その数字のほうです。不安の大きさではなく、線の位置で判断する。ここから始めます。
仕組み:立替払制度は何に基づいて動くか

未払賃金立替払制度は、賃金の支払の確保等に関する法律に基づく制度です。労働者とその家族の生活の安定を図る、国のセーフティーネットと位置づけられています。
実施しているのは独立行政法人労働者健康安全機構です。
立替払を行ったあと、機構はそこで終わりにしません。立替払金に相当する額について労働者の賃金請求権を代位取得し、事業主等に求償しています。
ここは経営側にとって大事な点です。立替払は、支払義務が消える仕組みではありません。払う相手が機構に変わるだけです。
規模も公表されています。制度は昭和51年(1976年)に創設され、令和7年3月までの間に約137万人、総額約5,651億円の立替払が行われてきました。直近では、令和6年度の支給者数が30,591人、立替払額は約110億円とされています。
種類:立替払の対象になる賃金は決まっています
対象は「未払いのお金」なら何でもよい、というわけではありません。
立替払の対象となるのは、退職日の6か月前の日から、機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来しているものです。その中で、定期賃金と退職手当の2つが対象になります。
定期賃金とは、労働基準法第24条第2項に規定する、毎月1回以上定期的に決まって支払われる賃金を指します。基本給、家族手当、通勤手当、時間外手当などが例として挙げられています。金額は、所得税・住民税・社会保険料等の法定控除額を控除する前の額です。
退職手当は、労働協約や就業規則(退職金規程)等に基づいて支給される退職金をいいます。
ただし、下限があります。未払賃金総額が2万円未満のときは対象外です。
差し引かれるものもあります。既に支払を受けた分、事業主の債権に基づいて毎月の賃金から差し引かれている社宅料、会社からの物品購入代金、貸付金、返済金等がある場合。これらを差し引いた後の額が未払賃金になります。
費用:立替払される金額は8割です

立替払される金額は、未払賃金総額の100分の80の額です。全額ではありません。
さらに、対象となる未払賃金総額には退職日の年齢による限度額があります。限度額を超えるときは、立替払される金額は限度額の100分の80になります。
機構は具体例を示しています。
例1。退職日の年齢32歳、未払賃金総額170万円(定期賃金50万円、退職手当120万円)の場合。170万円は30歳以上45歳未満の限度額220万円を超えていません。よって立替払額は170万円×0.8で136万円になります。
例2。退職日の年齢48歳、未払賃金総額470万円(定期賃金150万円、退職手当320万円)の場合。470万円は45歳以上の限度額370万円を超えています。この場合の立替払額は、上限額の296万円です。
2つの例が示しているのは、順番です。先に限度額と比べ、そのあとに8割を掛ける。この順番を逆にすると、金額を読み違えます。
期限:2つの期限が別々に動いています
期限は1つではありません。混ぜると間に合わなくなります。
1つめ。退職後6か月以内に、裁判所への破産手続開始等の申立て、または労働基準監督署長への認定申請がなされなかった場合は、立替払の対象になりません。機構は、会社が倒産して賃金の未払が発生した場合はできるだけ早く労働基準監督署に相談するよう案内しています。
2つめ。立替払を請求できる期間です。破産等の法律上の倒産の場合は、裁判所の破産手続の開始等の決定日または命令日の翌日から起算して2年以内。事実上の倒産の場合は、労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から起算して2年以内です。
この期間内に立替払請求書を機構へ提出しなければなりません。期間を過ぎた場合は立替払を受けることができません。
紙に書くときは、2行に分けてください。申立て・認定申請の6か月と、請求の2年。起算日が違うので、同じ欄に置くと必ず混乱します。
手順:どこに相談できるか

公的な窓口が用意されています。目的によって行き先が変わります。
制度そのものについては、機構の未払賃金立替払相談コーナーがあります。電話番号は044-431-8663、相談時間は土・日・祝日を除く9時15分から17時00分です。
受け付けている内容も公表されています。
- 倒産に伴う賃金不払についての一般的な相談
- 未払賃金立替払制度に関する質問
- 請求手続きの流れと、請求書の書き方
- 請求に必要な提出書類、添付書類の確認
- 氏名・住所・受取金融機関の変更方法
- 証明書の書き方
相談方法には制限があります。来所または電話での応対に限られ、電子メール・郵便・ファックスによる相談は受け付けていません。具体的な支払日の問い合わせにも答えられないとされています。
倒産の認定申請など手続の入口は、労働基準監督署です。全国の所在地は厚生労働省のページで都道府県別に案内されています。
労働条件そのものについて相談したいときは、厚生労働省の「確かめよう労働条件」に相談機関の案内があります。
注意点:遅配の段階でやるべきことは別にあります
ここまでは、倒産に伴う未払いの話です。
いま起きているのが遅配だけなら、立替払制度は前提を満たしていません。使えるのは、支払いを立て直すための手段のほうです。
それでも、この記事の数字には意味があります。制度が助けてくれる範囲は8割で、しかも上限があると分かるからです。
遅配を放置した先にあるのは、全額が守られる世界ではありません。従業員の手取りは、確実に目減りします。
だからこそ、遅配の段階で動く価値があります。支払日、不足額、いちばん近い期限。この3つを紙に書き出すところからです。
不足額がはっきりしていて、取引先に出した請求書が手元にあるなら、その請求書を入金日より前に資金化して支払いに充てるという選択肢もあります。手数料がかかりますし、条件が合わないこともあります。見積もりを取って比べたうえでご判断ください。
今日やる一歩
今日の一歩は、紙を1枚用意して、日付を3つ書くことです。
1つめは、支払えなかった給与の本来の支払日。2つめは、次の支払日。3つめは、いま手元にある現金で払える見込みの日です。
3つの日付が並ぶと、遅れの長さが数字になります。「遅れている」ではなく「何日遅れているか」に変わります。
もし倒産に関わる手続が視野に入っているなら、書く欄をもう1行増やしてください。退職日から6か月後の日付です。申立てや認定申請がその日を過ぎると、立替払の対象から外れます。
数字がそろったら、相談に持って行けます。制度の質問なら機構の相談コーナーへ、手続の入口なら労働基準監督署へ。電話の前に、日付と金額を手元に置く。それだけで、話は早く進みます。
参考にした公的資料
- 労働者健康安全機構「未払賃金の立替払事業」
- 労働者健康安全機構「未払賃金の立替払制度の概要」
- 厚生労働省「労働基準監督署所在案内」
- 厚生労働省「確かめよう労働条件 相談機関のご紹介」
- e-Gov法令検索「賃金の支払の確保等に関する法律」
このページは資金調達の判断材料をお伝えするものであり、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。制度や条件は変わることがあります。実際のお手続きの前に、必ず各機関・各社の公式サイトでご確認ください。
よくある質問
未払賃金立替払制度では、未払い分の全額が支払われますか?
全額ではありません。立替払される金額は未払賃金総額の100分の80の額で、さらに退職日の年齢による限度額があります。
立替払の対象になる賃金の範囲はどこまでですか?
退職日の6か月前の日から立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来している定期賃金と退職手当です。
立替払の請求はいつまでにすればよいですか?
法律上の倒産では裁判所の決定日等の翌日から、事実上の倒産では労働基準監督署長の認定日の翌日から起算して2年以内です。
未払賃金の額が小さくても立替払の対象になりますか?
未払賃金総額が2万円未満のときは対象外とされています。