人材派遣の資金繰り|給与は先払い、料金は後入金
更新日: 2026-08-07
この記事でわかること
- 賃金は毎月払う義務があり、派遣料金の入金前に必ず立替が生じること
- 許可を維持するための資産要件(基準資産2,000万円・現預金1,500万円)
- 借入と債権の売却では、貸借対照表への影響が違うこと
- 締めの回数を増やす交渉が、いちばん通りやすい理由
- 給与日から逆算した15日前・10日前・7日前の段取り
目次
賃金の支払日は動かせない。派遣料金の入金日も動かない。人材派遣の資金繰りが厳しいのは、経営の問題ではなく法律が決めている構造によるものです。このページは、その構造の中で現金をどう作るかを整理したものです。
最初に、なぜ立替が避けられないのかを法令の根拠で示します。次に、人材派遣に特有の落とし穴である許可の資産要件を説明します。そのうえで、要件を割らずに資金を作る方法を並べ、最後に給与日から逆算した段取りをお示しします。
仕組み:立替が避けられない法令上の理由
まず、構造の根拠を押さえます。ここを知っておくと、金融機関との話し方が変わります。
労働基準法第24条第2項は、賃金を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないと定めています(出典: 労働基準法|e-Gov法令検索・2026年8月7日確認)。
派遣元事業主も使用者としてこの規定の適用を受けます。したがって、派遣先からの入金がまだであっても、派遣労働者への賃金は支払わなければなりません。
一方、派遣料金の入金は締め日のあと、通常は翌月末や翌々月になります。この差が、そのまま立替になります。
数字にすると重さがわかります。月間の人件費が2,000万円で、派遣料金の入金が翌々月末だとすると、常時4,000万円前後を立て替えている状態です。売上が伸びるほど、この立替も比例して増えます。
つまり、人材派遣における資金繰りの悪化は業績が悪いときだけでなく、業績が良いときにも起きます。ここが他の業種と決定的に違うところです。
注意点:人材派遣に特有の許可の資産要件
資金繰りの話が、そのまま許可の話につながります。ここが人材派遣でいちばん見落とされやすい点です。
労働者派遣事業の許可基準には、財産的基礎の要件があります。厚生労働省の許可基準では、次の3つが求められます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 基準資産額 | 資産総額-負債総額が2,000万円×事業所数以上 |
| 負債とのバランス | 基準資産額が負債総額の7分の1以上 |
| 現金・預金 | 自己名義の現金・預金が1,500万円×事業所数以上 |
(出典: 厚生労働省の許可基準・2026年8月7日確認)
なお、常時雇用する派遣労働者が10人以下の中小企業事業主については、暫定的な配慮措置が設けられています。この場合の基準は、基準資産額1,000万円以上・現金預金800万円以上です。
ここで重要なのは、現金・預金にも下限があるという点です。資金繰りのために手元の現金を使い切ると、要件そのものを割ります。「支払いは済んだが、許可の更新が危うい」という状態が起こり得ます。
したがって人材派遣の資金繰りでは、目の前の支払いだけでなく決算日時点の貸借対照表がどうなるかまで見ておく必要があります。
比較:要件を割らずに資金を作る
そのうえで、どう資金を作るかです。ここでは貸借対照表への影響が方法によって違うことが効いてきます。
借入の場合
事業者ローンや銀行融資で借りると、現金は増えますが同時に負債も増えます。基準資産額(資産-負債)は変わりません。
そして、基準資産額が負債総額の7分の1以上という要件に対しては、負債が増える方向に働きます。もともと余裕が小さい場合、借入額によっては要件に近づくことがあります。
もちろん、金利の安い公的融資には別の価値があります。時間に余裕があるなら、まずこちらです。
売掛金を売却する場合
派遣先に出した請求書を買い取ってもらう方法です。こちらは借入ではありません。
一般に、この取引では資産の中身が売掛金から現金へ変わるだけで、負債は増えません。基準資産額そのものは、支払った手数料の分だけ減ることになります。
どちらの方法が自社の決算にどう影響するかは、必ず顧問税理士にご確認ください。会計処理は契約の内容によって変わり得るため、ここを自己判断で進めるのは避けてください。
そのうえで、派遣業がこの方法と相性が良い理由が1つあります。審査で主に見られるのは自社ではなく派遣先の支払い能力です。派遣先が上場企業や官公庁であれば、自社の決算が厳しくても通りやすくなります。
申し込むときに1つだけ確認していただきたいのは、諸費用まで差し引いた最終的な受取額です。派遣は金額が大きいぶん、率のわずかな違いが受取額では大きく響きます。
仕組みと費用の考え方は次のページにまとめています。
取引先に知られたくない場合
派遣先との関係を考えて、資金化していることを知られたくないという相談は多いところです。
この点は契約の形で変わります。自社と資金化する会社の2社だけで完結する形(2社間)であれば、派遣先への通知は行われないのが一般的です。その代わり手数料は高くなります。
どちらの形になるのか、通知や承諾が必要かは、契約前に必ず書面で確認してください。違いは次のページで説明しています。
文例:支払サイトの短縮を切り出す
単発の資金化は費用がかかります。構造を変えられるなら、そのほうが効果は続きます。
人材派遣で交渉の余地があるのは、次の3点です。
- 締め日から支払日までの期間——翌々月末を翌月末にできないか
- 締めの回数——月1回を月2回にすれば、実質の立替期間は半分になります
- 大口案件の着手金——大量派遣の開始時に一部を前払いしてもらえないか
このうち2番目が、いちばん通りやすい交渉です。相手にとっては支払総額が変わらないためです。
切り出し方の例をお示しします。
いつもお世話になっております。お支払条件について1点ご相談させてください。 現在は月末締めの翌々月末払いでいただいておりますが、月2回の締めに変更していただくことは可能でしょうか。お支払いの総額は変わらず、当社の人員配置を安定させやすくなります。 ご負担が増えるようであれば、大口の◯◯案件のみからでも構いません。
「総額は変わりません」と先に伝えると、相手の警戒が下がります。
交渉全般の進め方は次のページにまとめています。
手順:給与日から逆算した段取り
最後に、実務の段取りです。人材派遣で最も動かせないのが給与日ですので、そこから逆算します。
| 給与日までの日数 | やること |
|---|---|
| 15日前 | 当月の入金予定と人件費を突き合わせ、不足額を出す |
| 10日前 | 不足があれば、まず派遣先への入金前倒しを相談 |
| 7日前 | 並行して債権の資金化を2社に見積依頼 |
| 5日前 | 振込額(率ではなく金額)で比較して決定 |
| 3日前 | 契約・書類提出。入金日を書面で確認 |
15日前に数字を出すことが、すべての起点になります。ここが遅れると、選択肢が1つずつ消えていきます。
不足額の計算は、当月に確実に入る派遣料金から、当月に必ず出る人件費・社会保険料・家賃を引くだけです。確実に入る額には、請求済みで入金日が確定しているものだけを入れてください。
条件が合いそうであれば、見積もりを取るところからです。相談だけであれば費用はかかりません。
今日やる一歩
このページを閉じたあと、最初にやることを1つだけ決めましょう。
- 今月の給与が厳しい——派遣先ごとの請求額と入金日を一覧にし、不足額を出す
- 毎月ぎりぎりが続いている——最も取引額の大きい派遣先に、締め回数の変更を相談する
- 決算が近い——顧問税理士に、基準資産額と現金預金の見込みを確認する
3つ目を怠ると、資金繰りを乗り切っても許可の更新でつまずきます。
参考にした公的資料
- 労働基準法|e-Gov法令検索——第24条第2項(賃金の毎月払いの原則)(2026年8月7日確認)
- 厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」掲載の許可基準——財産的基礎の要件(2026年8月7日確認)
- 厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領・様式・各種報告書」——許可基準の掲載元(2026年8月7日確認)
- 金融庁「ファクタリングに関する注意喚起」——実質的な貸付への注意(2026年8月7日確認)
このページは資金調達と関連制度の判断材料をお伝えするものであり、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。会計処理や許可要件への影響については、必ず顧問税理士および管轄の労働局にご確認ください。制度の内容は変わることがあります。
よくある質問
派遣料金が入る前に給与を払わなければならない法律上の根拠は何ですか?
労働基準法第24条第2項です。賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないと定められています。派遣元事業主も使用者としてこの規定の適用を受けるため、派遣先からの派遣料金の入金時期にかかわらず、派遣労働者への賃金は毎月支払う必要があります。
労働者派遣事業の許可には、どのような資産要件がありますか?
厚生労働省の許可基準では、資産総額から負債総額を引いた基準資産額が2,000万円に事業所数を乗じた額以上であること、基準資産額が負債総額の7分の1以上であること、自己名義の現金・預金が1,500万円に事業所数を乗じた額以上であることが求められます。常時雇用する派遣労働者が10人以下の中小企業事業主には、基準資産額1,000万円以上・現金預金800万円以上とする暫定的な配慮措置があります。
資金繰りのために借入をすると、許可の要件に影響しますか?
借入は負債が増えるため、基準資産額が負債総額の7分の1以上という要件に影響し得ます。一方、売掛金を売却して現金化する取引は、一般に資産の中身が売掛金から現金へ変わるだけで負債は増えません。どちらの方法が自社の決算にどう影響するかは、必ず顧問税理士に確認してください。
派遣の売掛金でもファクタリングは使えますか?
使えます。派遣先が法人であれば売掛金として扱われます。審査で主に見られるのは自社ではなく派遣先の支払い能力のため、派遣先が上場企業や官公庁であれば通りやすくなります。