美容室の開業資金|公庫の手引が示す1,000万円

更新日: 2026-08-30

この記事でわかること

  • 日本政策金融公庫の手引には、必要な資金1,000万円の記入例があります。
  • 記入例の内訳は、設備資金870万円と運転資金130万円です。
  • 売上予測は、客単価、椅子数、回転数、稼働日数を掛けて計算します。
  • 美容所は開設前に届け出て、検査確認を受けた後でなければ使用できません。
  • 美容師である従業者が常時2人以上なら、管理美容師を置く必要があります。
目次

美容室の開業資金を調べると、いくつもの金額が出てきます。どれが何の数字なのかが分からないまま、総額だけが頭に残りがちです。ここでは日本政策金融公庫が公表している美容業向けの手引だけを材料に、資金の内訳・売上の算式・開設の手続きを順に並べます。

まず結論:公庫の手引は、設備870万円・運転130万円の例を示しています

日本政策金融公庫の「美容業 創業の手引+」には、必要な資金を書き込む記入例があります。合計は1,000万円。内訳は設備資金870万円と運転資金130万円です。

先に断っておきます。この1,000万円は、美容室の相場でも平均でもありません。あくまで手引が示す記入例です。自分の店にそのまま当てはめる数字ではなく、項目の抜けを見つけるための型として使ってください。

調達の方法にも記入例があります。こちらも合計は1,000万円で、自己資金300万円、日本公庫からの借入500万円、信用金庫からの借入200万円という構成です。

借入には返済の記載まで付いています。日本公庫の500万円は元金7万円を72回。信用金庫の200万円は元金3万円を67回です。借りた金額だけでなく、毎月いくら返すかまでを1枚に書く形になっています。

必要な資金の欄と調達の方法の欄は、合計額こそ同じですが役割が違います。前者は何に使うかを、後者はどこから集めるかを示す欄です。

仕組み:売上は客単価とセット面数と回転数で決まります

手引が示す1ヵ月の売上予測は、客単価×椅子数×回転数×稼働日数で計算します。総額を先に置くのではなく、売上をつくる要素へ分解する算式です。

例として挙がっているのは、美容椅子2台、1日1台当たり4.5回転、客単価3,950円、月25日稼働という前提です。

3,950円×2台×4.5回転×25日=88万円。これが1ヵ月の売上予測になります。

この形の利点は、どこを動かせば売上が変わるかが見えることです。椅子を増やすのか、回転を上げるのか、単価を上げるのか。同じ「売上を伸ばす」でも、必要な投資はまったく違います。

手引は売上で話を終えていません。返済については返済財源=減価償却費+当期利益という関係を示しています。

個人企業ならもう一段あります。収支見込=返済財源-借入金返済元金-家計費です。売上、利益、返済財源、そして生活費を引いた後の手残り。段階を分けて確かめる作りになっています。

手引の記入例は、項目ごとに金額を積み上げる形で書かれています。

費用:内外装工事の600万円が、必要な資金の6割を占めます

記入例で最も大きいのは工事です。店舗内外装工事が600万円で、設備工事もここに含まれます。合計1,000万円の6割です。

残りの設備資金も項目が分かれています。セット椅子3台で30万円、シャンプー台2台で40万円。什器と備品類が100万円、保証金が100万円です。ここまでで設備資金の小計は870万円になります。

椅子と台の合計は70万円にすぎません。金額を動かしているのは、器具ではなく工事と保証金です

運転資金は130万円と小さめです。消耗品等仕入が30万円、広告費等諸経費支払が100万円という内訳になっています。

ここは注意が要ります。手引のチェック項目には、創業時の広告宣伝費や人材募集費だけでなく、事業開始後の運転資金として半年程度の赤字補てん資金等の準備も挙がっています。記入例の130万円は、その赤字補てんまで含んだ金額ではありません。

工事についても問いかけがあります。2社以上から見積書を取って、工事価格の妥当性や相場観をつかんでいますか、という一文です。600万円という大きな項目だからこそ、比べる相手が要ります。

物件の契約には順番があります。手引は、資金調達の準備、特に金融機関からの借入が決定していることが整ってから本契約を結ぶよう勧めています。良い物件が見つかったから先に押さえる、という順番を戒める内容です

居抜き物件を検討するなら、確認は二重になります。譲渡価格の妥当性を検証すること。そして、前オーナーがどんな理由で店を閉めたかを確認することです。立地の問題で閉めた店なら、安く買えたこと自体が損になります。

開業資金はいくら必要か(平均975万円・中央値600万円)

比較:創業当初の利益38万円と、軌道に乗った後の53万円

事業の見通しの記入例は、創業当初と軌道に乗った後を分けて書く形式です。単位は万円になっています。

創業当初は売上高95、売上原価15、経費合計42、利益38です。

売上高95には根拠が添えられています。平均単価6,000円×3台×2回転×26日で93万円。そこへヘアケア商品販売の月2万円を足しています。原価率は15%で、勤務時の経験からとされています。

経費42の中身は、人件費10、家賃10、支払利息2、その他20です。人件費10は専従者1人である妻についての金額で、雇用したスタッフの給与ではありません。

軌道に乗った後は売上高142、売上原価22、経費合計67、利益53となります。

売上が95から142へ伸びる理由は、はっきり書かれています。2回転から3回転へ変わるという前提です。席を増やしたのでも、単価を上げたのでもありません。

経費も同時に増えます。人件費はアシスタント1人分の15万円が乗って25へ。その他経費も10万円増えて30になります。

利益の差は15万円です。売上は47万円伸びているのに、手元に残る差はその3分の1にとどまります。回転が上がれば人手も要る、という関係が記入例の中で示されています

開業資金の融資(公庫と信用保証協会の2ルート)

条件:美容業の生活衛生新企業育成資金は、組合員かどうかで枠が変わります

生活衛生新企業育成資金は、生活衛生関係の事業を創業する方、または創業後おおむね7年以内の方が対象です。

枠は一律ではありません。振興計画認定組合の組合員かどうかで、使える限度額が変わります

組合員の場合、美容業では設備資金1億5,000万円、運転資金5,700万円が限度額です。返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内で、据置期間は5年以内とされています。

組合員以外の方は、一般貸付の限度額として設備資金7,200万円が示されています。対象は設備資金のみで、運転資金の枠はここに含まれません。返済期間は20年以内、据置期間は5年以内です。

手続きにも差が出ます。組合員は組合長の振興事業に係る資金証明書を、それ以外の方は都道府県知事の推せん書を用意します。

ただし例外があります。申込金額が500万円以下なら、推せん書は不要とされています。

手引には経営者保証免除特例制度の説明もあります。新たに事業を始める方や、税務申告を2期終えていない方など、一定の要件を満たす方が使える特例です。この特例では、融資にあたり経営者の保証が免除されます

新規開業・スタートアップ支援資金も、事業開始後おおむね7年以内の方が対象です。制度名だけで選ばず、対象・限度額・返済期間・必要書類を横に並べて比べてください。

開設届は開設のあとではなく、あらかじめ出す届出です。

手順:開設届は「あらかじめ」。検査確認を受けるまで店は使えません

美容師法は、美容所を開設しようとする者に届出を求めています。時期は開設前の「あらかじめ」です。開けてから出す届出ではありません。

そして、届出を出せば営業できるわけでもありません。

開設者は構造設備について都道府県知事の検査を受け、必要な措置を講ずるに適する旨の確認を受けます。法律は確認を受けた後でなければ美容所を使用してはならないと定めています。あらかじめの届出、検査、確認、使用。この順です。

資金繰りの上では、ここが効きます。内装が仕上がっても、確認が下りるまで売上はゼロです。家賃だけが動く期間が生まれます。

美容師法施行規則は、開設届の記載事項を9項目としています。美容所の名称及び所在地、開設者の氏名及び住所、管理美容師の氏名及び住所などです。美容所の構造及び設備の概要と、開設予定年月日も書きます。

設備の内容は、衛生の基準と切り離せません。同規則は、美容のための直接の作業を行う作業面の照度を100ルクス以上と定めています。

衛生管理要領のほうは、作業中の作業面について300Lux以上が望ましいとしています。その注記では、規則の基準が100Lux以上であることにも触れています。規則が定める基準と、要領が示す望ましい値は別物です

面積については、思っているより緩やかです。衛生管理要領は「作業及び衛生保持に支障を来たさない程度の十分な広さ」と述べるにとどまり、平方メートルの基準は示していません。作業椅子1台当たりの面積の基準もありません。

飲食店の開業資金(生活衛生貸付という枠)

注意点:美容師が常時2人以上なら、管理美容師を置きます

人を雇う計画があるなら、先に確認しておきたい要件があります。

美容師である従業者の数が常時2人以上である美容所では、開設者は美容所ごとに管理美容師を置かなければなりません。開設届にも、管理美容師の氏名及び住所を書く欄があります。

判断の基準は、店の規模でも売上でもありません。美容師である従業者が何人いるかです。

設備の側にも決めごとが並びます。衛生管理要領は、床及び腰張りにコンクリート、タイル、リノリウム、板等の不浸透性材料を使い、清掃が容易に行える構造とすることを求めています。

洗場は流水装置とし、給湯設備を設けます。器具類、布片類、タオル等を消毒する設備または器材も備えます。

消毒の方法は美容師法施行規則が定めています。かみそりや血液が付着した器具が対象です。挙げられている方法には、次のようなものがあります。

  • 沸騰後2分間以上の煮沸
  • エタノール水溶液へ10分間以上浸す
  • 次亜塩素酸ナトリウム0.1%以上の水溶液へ10分間以上浸す

換気の基準もあります。規則は空気1リットル中の炭酸ガスを5立方センチメートル以下と定め、衛生管理要領は作業場内の炭酸ガス濃度を5,000ppm以下としています。同要領が望ましい値として挙げるのは、炭酸ガス濃度1,000ppm以下、一酸化炭素濃度10ppm以下です。

これらは内装工事の見積書に効いてくる条件です。工事を頼む前に、床材・照明・換気・給湯・消毒設備を仕様として渡しておくと、後からの手戻りが減ります。

時間:新規出店14,934軒に対し、閉鎖・廃業は9,268軒です

最後に、市場の動きを見ておきます。

日本政策金融公庫の「理容業・美容業の創業ポイント」によれば、令和4年度の美容所は269,889軒で、前年度比5,666軒の増加です。内訳を見ると、新規出店が14,934軒、閉鎖・廃業が9,268軒となっています。

開いた店の6割を超える数が、同じ年に閉じています。

理容所は逆の動きです。112,468軒で前年度比1,935軒の減少。新規出店2,004軒に対し、閉鎖・廃業は3,939軒でした。

なお、この公庫ページに開業費用の金額は載っていません。本文で扱った金額はすべて美容業向け創業の手引の記入例によるものです。軒数の資料と金額の資料は、分けて参照してください。

今日やる一歩

紙を1枚出して、必要な資金を設備と運転に分けて書きます。

設備の側に並べるのは、内外装工事、セット椅子、シャンプー台、什器・備品類、保証金です。運転の側は、消耗品等仕入と広告費等諸経費支払。手引の記入例と見比べて、抜けている項目がないかだけを先に確かめます。

工事は2社以上から見積書を取ります。居抜きなら、譲渡価格の妥当性と前オーナーの閉店理由を確認します。物件の本契約は、借入が決まってから結びます。

次に売上予測です。客単価、椅子数、回転数、稼働日数の4つを、それぞれ数字で埋めます。そこから減価償却費と当期利益で返済財源を出し、個人企業なら返済元金と家計費を引いた収支見込まで書きます。

最後に日付を並べます。開設届の提出日、構造設備の検査、確認、そして営業開始日。確認が下りるまでの家賃を、運転資金に必ず入れておいてください

参考にした公的資料

この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。

よくある質問

公庫の手引にある必要な資金の記入例はいくらですか?

合計1,000万円で、設備資金870万円と運転資金130万円の記入例です。相場や平均を示す金額ではありません。

美容室の売上予測はどのように計算しますか?

手引では、1ヵ月の売上予測を客単価×椅子数×回転数×稼働日数で計算します。

美容所は届出をすればすぐに使えますか?

開設前の届出に加え、構造設備の検査を受け、適する旨の確認を受けた後でなければ使用できません。

管理美容師が必要になるのはどのような美容所ですか?

美容師である従業者の数が常時2人以上である美容所では、美容所ごとに管理美容師を置きます。

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