ファクタリングの乗り換え|前の登記を確かめる順番
更新日: 2026-09-11
この記事でわかること
- 乗り換えの対象になる請求書と、ならない請求書の線引き
- 前の会社との関係が請求書の入金まで続く仕組み
- 登記の有無を確かめる3種類の証明書と、誰が請求できるか
- 抹消登記と延長登記の登録免許税、前の会社の協力が要る理由
- 乗り換え先の見積もりと契約書で確かめる点
目次
ファクタリングを続けて使っていると、「もっと条件のよい会社へ移れないか」と考える時期が来るものです。この記事では、別の会社へ乗り換える前に確かめることを、手を付ける順番に並べてお伝えします。
見るべきものは3つあります。まだ売っていない請求書、前の会社との契約、そして法人の場合は債権譲渡登記(さいけんじょうととうき)です。
まず結論:乗り換えられるのは、まだ売っていない請求書だけです
最初に線を引いておきます。すでに前の会社へ売った請求書は、乗り換えの対象になりません。
金融庁の注意喚起は、ファクタリングを「法的には債権の売買(債権譲渡)契約」と説明しています。売った時点で、その請求書の代金を受け取る権利は前の会社へ移っています。同じ請求書を別の会社へ売れば二重譲渡になり、取り返しのつかない争いの原因になります。
ですから、乗り換えは「次に発行する請求書から」と考えてください。
いま前の会社との間で動いている取引は、今の契約のまま最後まで終わらせます。そのうえで新しい会社に見積もりを頼めば、2社の契約が同じ請求書の上で重なることはありません。1枚の請求書に、契約は1社だけ。これが乗り換えの第一原則です。
では、前の会社との関係はどこまで続いているのでしょうか。次は、契約の中身から見ていきます。
仕組み:前の会社との関係は、入金を渡し終えるまで続きます
「もう次は使わない」と決めても、それだけで関係がすべて終わるわけではありません。
金融庁の注意喚起には、譲渡した債権の回収(集金)を、ファクタリング業者が売主に委託する形が例として出てきます。取引先からの入金を自社でいったん受け取り、それを会社へ渡す形です。この形の契約なら、入金を渡し終えるまでは、前の会社との約束が残っています。
乗り換えの準備は、売った請求書を一覧にするところから始めます。請求書ごとに支払期日、入金を渡す日、渡し終えたかどうかを並べてください。1枚でも残っているうちは、区切りはまだついていません。
同じページで、金融庁はもう1つ大事な点を挙げています。集金できなかったときに売主が買い戻す、または売主自身の資金で支払うとされている契約は、貸金業に該当するおそれがあるという指摘です。前の契約書を開いたついでに、この2か所にも目を通しておきましょう。乗り換え先の契約を読むときにも、そのまま使える視点になります。
契約の次に確かめたいのが、法人だけに関わる「登記」です。個人事業主の方は、次の章の最初の段落だけ読めば先へ進んで構いません。
条件:法人は、前の会社の登記が残っていないかを確かめます
法務省の制度概要によると、債権譲渡登記ができるのは譲渡人が法人の場合だけです。個人事業主の取引は、この登記の対象になりません。
法人の場合は、ここが乗り換えでいちばん見落とされやすい部分です。
登記をすると、取引先以外の第三者に対して、確定日付のある証書で通知したのと同じ扱いになります。言い換えれば、「この売掛金は譲渡済みです」と第三者に主張するための記録です。前の会社が登記をしていれば、その記録は債権譲渡登記ファイルに残っています。
気をつけたいのは、登記の範囲です。法務省は、債務者が特定していない将来の債権も登記できると説明しています。前の会社の登記に、これから発生する売掛金まで含まれている場合があるということです。
記録は、取引をやめただけでは消えません。法務省の案内では、存続期間が登記の日から50年(債務者が特定していない債権を含む場合は10年)を超えるときに、特別の事由を証明する書面が求められます。つまり、それだけ長い期間を設定できる仕組みです。
乗り換え先に出す請求書が、前の登記の範囲に入っていないか。法人の方は、ここを確かめてから新しい契約に進んでください。
登記が入る取引の費用と時間は、法人の即日調達の記事でも詳しく扱っています。
では、その記録はどうやって見ればよいのでしょうか。請求できる証明書は3種類あります。
手順:3種類の証明書で、登記の有無を確かめます
法務省の証明書の案内では、債権譲渡登記に関わる証明書が次の3つに分かれています。誰が請求できるかが違うので、表で並べます。
| 証明書 | 載っている内容 | 請求できる人 | 請求先 |
|---|---|---|---|
| 登記事項証明書 | 個々の債権に関する登記事項の全部 | 当事者・債務者・利害関係人のみ | 債権譲渡登記所 |
| 登記事項概要証明書 | 債務者名など個々の債権を特定する事項を除いたもの | 誰でも | 債権譲渡登記所 |
| 概要記録事項証明書 | 債権を特定する事項や登記原因などを除いたもの | 誰でも | 全国の商業登記所・不動産登記所 |
自社は前の登記の譲渡人、つまり当事者です。そのため、個々の債権まで載った登記事項証明書を請求できる立場にあります。どの売掛金が登記に入っているかを知りたいときは、これがいちばん詳しい資料です。
まず全体をつかみたいなら、概要記録事項証明書が手軽です。全国の商業登記所で請求でき、譲渡人の商号などで検索します。記録がなければ、記録されている事項がない旨の証明書、いわゆる「ないこと証明」が交付されます。
時間差には1つ注意してください。概要記録事項証明書は、債権譲渡登記所の処理が終わったあと、譲渡人の本店を管轄する商業登記所の処理が終わるまで発行されません。
請求の方法は、書面とオンラインの2通りです。オンライン請求は、窓口や送付による請求より手数料が安いと法務省は案内しています。会社にいながら請求して、郵送で受け取ることもできます。
ここまでの流れを、手を動かす順番にまとめます。
- 売った請求書を一覧にし、入金を渡し終えたかを確かめる
- 法人なら、概要記録事項証明書で自社を譲渡人とする記録の有無を見る
- 記録があれば、登記事項証明書で対象になっている債権を確かめる
- 前の会社に、登記を抹消する予定があるかを尋ねる
記録が残っていた場合、次に気になるのは「消せるのか、いくらかかるのか」ではないでしょうか。
費用:抹消は1件1,000円。ただし前の会社の書類が要ります
登記の手続きには、それぞれ登録免許税がかかります。法務省の添付書面・登録免許税の案内が示す金額は、次のとおりです。
| 手続き | 登録免許税 |
|---|---|
| 債権譲渡登記(債権5,000個以下) | 1件7,500円 |
| 債権譲渡登記(債権5,000個超) | 1件15,000円 |
| 延長登記(存続期間を延ばす) | 1件3,000円 |
| 抹消登記・一部抹消登記 | 1件1,000円 |
7,500円と3,000円は、租税特別措置法で軽減された額です。納付は収入印紙などで行い、オンライン申請なら電子納付も使えます。
もっとも、金額より重いのは誰の協力が要るかです。
同じ案内の添付書面の一覧を見ると、抹消登記には譲受人の印鑑証明書が含まれています。譲受人とは、ここでは前の会社のことです。自社だけでは抹消の書類がそろわないので、前の会社に動いてもらう必要があります。法務省も、債権譲渡登記は譲渡人と譲受人が共同して申請する制度だと説明しています。
延長登記にも目を向けておきます。延長後の存続期間は、当初の登記の日から数える決まりです。前の会社との取引を終えるなら、延長ではなく抹消の予定を尋ねてください。
抹消を誰が、いつ申請し、費用をどちらが持つか。この3点は、口頭で済ませずにメールなど記録に残る形でやり取りしておくと安心です。
前の会社との整理がついたら、いよいよ乗り換え先を選ぶ段階です。条件を正しく比べる方法を見ておきましょう。
比較:乗り換え先は、同じ請求書と同じ書類で見比べます
乗り換えを考えるとき、まず目が行くのは手数料でしょう。ただ、見積もりの条件がそろっていなければ、低く見える数字が本当に低いのかは判断できません。
比べるときは、1枚の請求書と同じ書類で、複数社に見積もりを頼むのが基本です。前の会社で出ていた条件も、同じ表に並べます。並べる欄は、次の4つです。
- 手数料(金額と率の両方)
- 入金までの日数
- 登記を求められるかどうか
- 買戻しや売主自身の資金での支払いの決まりがあるか
手数料は、率だけで見ないでください。支払期日までの日数が違えば、同じ率でも資金繰りにかかる重さは変わります。
金融庁は、買取代金が債権額に比べて著しく低いケースには偽装ファクタリングの疑いがあると注意を促しています。乗り換え先の提示が極端に悪いなら、条件の問題ではなく相手の問題を疑うべき場面です。
もう1つ、乗り換えても毎月の利用が続く状態そのものは変わりません。使い続けることの重さも、一度確かめておいてください。
条件がそろったら、最後に契約書を読みます。乗り換えの場面だからこそ、確かめておきたい点が2つあります。
注意点:乗り換え先の契約書で、2つの点を確かめます
1つ目は、買戻しと支払いの決まりです。
先ほど触れた金融庁の指摘のとおり、集金できなかったときに売主が買い戻す、または売主自身の資金で支払うとされている契約は、貸金業に該当するおそれがあります。契約書に「債権譲渡契約(売買契約)」と書かれていても、それだけで判断は終わりません。金融庁は、形式的な要素だけでなく、経済的側面や実態で判断されるとしています。
2つ目は、登記の扱いです。新しい会社が登記を求めるなら、その登記は乗り換えたあとの取引に残ります。取引を終えたら誰が抹消するのかを、契約の時点で確かめておきましょう。前の会社で生じた手間を、次に繰り返さないためです。
登記について、もう1つ知っておいていただきたいことがあります。
法務省は、債権譲渡登記が債権の存在や譲渡の有効性を証明するものではないと明記しています。登記があるから安全な取引だ、とは言えないのです。契約内容に少しでも不安が残るなら、署名の前に弁護士へ相談してください。金融庁も、心配な点があれば法律の専門家である弁護士に相談するよう呼びかけています。
今日やる一歩
今日は、売った請求書の一覧を作るところまで進めてください。請求書ごとに、支払期日と入金を渡し終えたかを書き込みます。
法人の方は、次に概要記録事項証明書を請求します。自社を譲渡人とする記録があるかどうかが、それで分かります。記録があれば前の会社に抹消の予定を尋ね、なければそのまま見積もりの比較に進みます。
守る線は1つだけです。売った請求書は動かさず、次の請求書から乗り換える。
参考にした公的資料
このページは資金調達の判断材料をお伝えするものであり、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。制度や条件は変わることがあります。実際のお手続きの前に、必ず各機関・各社の公式サイトでご確認ください。
よくある質問
前の会社に売った請求書を、別の会社へ売り直せますか?
できません。売った時点で、その請求書の代金を受け取る権利は前の会社に移っています。同じ請求書を2社に売ると二重譲渡になるため、乗り換えは次に発行する請求書から考えます。
前の会社の債権譲渡登記が残っているか、どうやって確かめますか?
法務省の案内では、概要記録事項証明書は誰でも全国の商業登記所で請求できます。自社の商号などで検索して記録がなければ、記録がない旨の証明書(いわゆる「ないこと証明」)が交付されます。
債権譲渡登記の抹消にはいくらかかりますか?
登録免許税は1件につき1,000円です。ただし抹消登記の添付書面には譲受人の印鑑証明書が含まれているため、前の会社の協力が必要になります。
個人事業主も登記を確かめる必要がありますか?
法務省によると、債権譲渡登記ができるのは譲渡人が法人の場合に限られます。個人事業主の取引は登記の対象外なので、売った請求書の一覧と契約書の確認が中心になります。