決算書がなくても資金調達はできるか
更新日: 2026-09-09
この記事でわかること
- 決算書がない状況は3つに分かれ、それぞれ開く扉が変わります
- 公庫は創業計画書と企業概要書という様式を公式に用意しています
- 新規開業・スタートアップ支援資金は開業後おおむね7年以内が対象
- 担保と保証人は相談で決まると書かれ、一律の扱いではありません
- 書類が少ないことを売りにする相手には、実態で判断が必要です
目次
まず結論:決算書がなくても道は残ります。ただし見せる書類が入れ替わります
決算書がない。それだけで資金調達をあきらめてしまう方がいます。
けれど決算書は、相手に見せる材料のひとつにすぎません。事業を始めたばかりの方や、まだ一度も決算を迎えていない方のために、公的機関は最初から別の書式を用意しています。日本政策金融公庫の様式一覧を開くと、創業計画書と企業概要書が並んでいます。これは「決算書を出せない相手が来る」ことを前提にした作りです。
問題は、決算書がないことそのものではありません。
決算書が担っていた役割を、別の書類で埋められるかどうか。判断はここに集まります。
このページでは、まず決算書が何を証明していたのかを整理します。そのうえで状況を3つに分け、それぞれで検討できる入り口を見ていきます。最後に書類のそろえ方と、避けたほうがよい相手の見分け方を置きます。
仕組み:決算書は何を証明していたのか
決算書を求められる理由は単純です。過去の数字は、確かめようがあるからです。主観が入り込む余地が小さい、とも言えます。
売上がいくらあったか。利益は残ったか。借入はどれだけあるか。これらは本人の説明ではなく、書類の側が語ります。だから相手は決算書を見たがります。
一方で、決算書には限界もあります。それは過去の記録であって、これからの計画ではありません。事業を始める前の方には、そもそも過去がない。ここで証明の材料が、過去の実績からこれからの計画へ移ります。
公庫は創業計画書を「新たに事業を始める方に事業計画等をご記入いただくもの」と説明しています。企業概要書のほうは「はじめてお取引いただく方に、取扱商品・サービス等の企業内容について、簡単にご記入いただくもの」と書かれています。
読み比べると、役割の違いが見えます。前者は計画を書く紙で、後者は何をしている事業なのかを伝える紙です。2枚で、決算書が語っていた内容を別の角度から埋めにいくという組み立てになっています。
種類:決算書がない状況は3つに分かれます
ひとくちに決算書がないと言っても、中身は同じではありません。どれに当てはまるかで、開く扉が変わります。
① これから事業を始める。過去の数字が存在しない状態です。公的な創業支援が正面から想定している場面で、公庫の様式では創業計画書がそのまま入り口になります。
② 始めて間もない。1期目の途中、あるいは1期目を終えたばかり。日々の数字はあるのに、年間を通した決算書はまだない状態です。この時期も創業支援の枠に入ることがあります。
③ 申告前で、作成が間に合っていない。事業は続いているのに、書類だけが追いついていません。
3つのうち、①と②は制度の側が想定している状況です。③だけは性質が違います。やるべきことは、まず作成を終えることで、決算書を出せる立場なら出したほうが早く進みます。自分がどれに当たるかを先に決めてから、次の節へ進んでください。
条件:公庫の新規開業・スタートアップ支援資金が使える人
日本政策金融公庫は「新規開業・スタートアップ支援資金」という制度を公表しています。対象は「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」と書かれています。
数字を並べます。融資限度額は7,200万円。返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内です。どちらにも据置期間が5年以内で付いています。
据置期間とは、元金の返済を待ってもらえる期間のことです。
始めたばかりの時期に効くのは、この部分です。売上が立ち上がるまでの間、毎月の負担が軽くなります。返済期間の長さだけを見て比べると、この違いを見落とします。
担保と保証人について、公庫のページはこう書いています。「お客さまのご希望を伺いながらご相談させていただきます」。
ここは読み方に注意してください。一律に不要とも、必ず必要とも書かれていません。相談の中で決まる、という説明にとどまります。断定した説明を見かけたときは、公式の記載に戻って確かめるのが安全です。
手順:決算書の代わりに出す書類をそろえる
公庫のサイトには、様式のダウンロードページがあります。ここを開けば、必要な紙がひととおりそろいます。

創業計画書は、事業計画を書く中心の書類です。ページには業種別の記入例が並んでいます。洋風居酒屋、美容業、中古自動車販売業、婦人服・子供服小売業、ソフトウェア開発業、内装工事業、学習塾、歯科診療所、介護サービス。自分の業種に近いものを開くと、どの粒度で書けばよいかが分かります。
企業概要書は、はじめて取引する相手に、扱う商品やサービスを伝えるための書類です。
月別収支計画書について、公庫は「創業計画書において、月別の詳細な収支計画を策定する場合に、ご記入いただくもの」と説明しています。年単位の計画では粗いとき、月ごとに落とし込む紙です。
借入申込書は事業資金の申込書で、押印は不要と明記されています。
補助的な資料も置かれています。「【参考】売上高等の計算方法について」と「【参考】創業計画書セルフチェックリスト」の2つです。
進め方はこうです。まず記入例を読む。次に自分の数字で創業計画書を書く。必要なら月別収支計画書を足し、最後にセルフチェックリストで見直します。白紙から書き始めるより、埋まった見本を先に読むほうが速いという点だけ覚えておいてください。
費用:担保・保証人をどう考えるか

資金調達の負担は、金利だけではありません。誰が保証を負うのかも、あとから重くのしかかります。
経営者の個人保証については、全国銀行協会が「経営者保証に関するガイドライン」を公表しています。ガイドラインは個人保証について、資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、思い切った事業展開や早期の事業再生を阻害する要因にもなると整理しています。
つまり、保証は一方的に悪いものとして扱われてはいません。役に立つ面と足かせになる面が同時にあるという前提で議論されています。外すことだけを目的にすると、判断を誤ります。
同協会のページには、本体のガイドラインのほかに事業承継時に焦点を当てた特則、廃業時における基本的考え方、そしてQ&Aが置かれています。関係しそうな場面があるなら、該当する資料を先に読んでおくと話が早くなります。
なお、どの条件で保証が外れるのかは、このページの記載からは分かりません。個別の扱いは必ず金融機関に確認してください。
注意点:「決算書不要」をうたう相手には気をつける
決算書がないと、選べる相手は狭まります。そこにつけ込む業者がいます。
金融庁はファクタリングについて注意喚起を出しており、そこにはこう書かれています。「ファクタリングとして行われる取引であっても、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなものは、貸金業に該当するおそれがあります」。
看板の名前ではなく、取引の実態で判断されるということです。
同じページは給与ファクタリングにも触れています。「給与ファクタリングという手法で、個人に貸付けを行うヤミ金融の存在も確認されています」との記載があります。
金利の物差しも示されています。年109.5%を超える利息の契約をした場合、消費貸借契約自体が無効である、と書かれています。
確かめる順番を決めておくと迷いません。まず、書類が少ないことを売りにしていないかを見る。次に、手数料が実質いくらになるかを計算する。最後に、契約書に買戻しの義務が入っていないかを読む。
急いでいるときほど、この3つを飛ばしがちです。
今日やる一歩
今日できることは、書類を1枚開くことです。
公庫のダウンロードページから、創業計画書の様式と、自分の業種に近い記入例を取ってください。所要は数分です。
書けない欄が出たら、そこが今の弱点です。売上の見込みが立たないのか、原価がつかめていないのか。理由がはっきりすれば、相談に行く前に手を打てます。
そのうえで窓口へ相談の予約を入れる。順番はこれだけです。
参考にした公的資料
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
- 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 小規模事業者/個人事業主の方【国民生活事業】」
- 金融庁「ファクタリングに関する注意喚起」
- 全国銀行協会「経営者保証ガイドライン」
本記事は一般的な情報提供であり、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。
よくある質問
決算書がなくても融資の相談はできますか?
日本政策金融公庫は、新たに事業を始める方に記入してもらう創業計画書と、はじめて取引する方に企業内容を書いてもらう企業概要書という様式を公式に用意しています。決算書を出せない状況が最初から想定されているため、相談そのものは可能です。
新規開業・スタートアップ支援資金は誰が対象ですか?
公庫のページには「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」と書かれています。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内で、いずれも据置期間が5年以内と記載されています。
担保や保証人は必要ですか?
公庫のページには「お客さまのご希望を伺いながらご相談させていただきます」と書かれています。一律に不要とも、必ず必要とも記載されていません。個別の扱いは相談の中で決まるため、断定した説明を見かけても公式の記載を確認してください。
「決算書不要」をうたう相手は安全ですか?
金融庁は、ファクタリングとして行われる取引でも、経済的に貸付けと同様の機能を有すると思われるものは貸金業に該当するおそれがあると注意喚起しています。看板の名前ではなく取引の実態で判断されるため、契約書と実質的な負担額を必ず確認してください。