事務所の家賃が払えないとき|3か月退去は法律にない
更新日: 2026-08-07
この記事でわかること
- 「何か月滞納で解除」という明文の規定は、法律に存在しないこと
- 解除の根拠は民法541条で、まず催告(お知らせ)が必要なこと
- 黙って遅らせるより、先に伝えたほうが結果が良くなること
- 大家さんに相談するときの、そのまま使える文面
- 家賃を作るために、まず何から当たるか
目次
事務所や店舗の家賃が払えない。追い出されるのではないか。事業所を失えば、仕事そのものができなくなります。
このページでは、実際にどうなるのかを条文で確認し、何をすればよいかを説明します。
最初に、よく言われる「3か月で解除」の根拠を確かめます。次に、大家さんへの伝え方をお示しします。そのあと、家賃を作る方法を説明します。最後に、固定費そのものの見直しに触れます。
まず結論:「3か月滞納で解除」は法律にない
調べていると「3か月滞納すると解除される」という説明をよく見ます。
この月数は、法律には書かれていません。
借地借家法にも民法にも、「何か月滞納したら解除できる」という明文の規定はありません(出典: 借地借家法、民法・いずれもe-Gov法令検索で2026年8月7日確認)。
実務で言われる月数は、裁判例の積み重ねによる目安です。法律で決まった基準ではありません。
では、何が根拠になるのか。民法第541条です。
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
つまり、いきなり解除されるのではなく、まず催告(支払いのお知らせ)が必要です。
この事実が意味すること
2つあります。
1つ目。「まだ2か月だから大丈夫」という考え方は危険です。月数は法律の基準ではないので、事情によって判断は変わります。
2つ目。同時に、1回遅れただけで即座に追い出されることもありません。手続きには段階があります。
いちばん重要なのは、月数を数えることではありません。大家さんとの関係を保てているかどうかです。
文例:大家さんへの伝え方
ここが結果を分けます。
鉄則は「支払日より前に、自分から」
期日を過ぎてからの連絡は、報告になります。期日の前であれば、相談になります。
大家さんの立場で考えてみてください。空室にして次を探すより、多少遅れても払ってもらうほうが得です。だから、払う意思が見えれば調整に応じてもらえることが多いのです。
そのまま使える文面
まず電話をかけます。
いつもお世話になっております。◯◯号室の◯◯です。◯月分のお家賃の件でご相談させてください。 入金が翌月にずれ込んだ関係で、◯日までのお支払いが難しい見込みです。◯月◯日には確実にお支払いできますので、それまでお待ちいただくことは可能でしょうか。
そのあと、書面でも送ります。
◯◯様
平素より大変お世話になっております。先ほどお電話でご相談いたしました件、あらためて書面にてお願い申し上げます。
・対象: ◯月分の賃料 ◯◯円 ・お支払い予定: ◯月◯日に全額 ・理由: 主要取引先からの入金が翌月にずれ込んだため
ご迷惑をおかけし誠に申し訳ございません。以後このようなことのないよう、資金管理を見直してまいります。
「いつ」「いくら」を具体的に書けるかどうかが分かれ目です。
「少し待ってほしい」だけでは、大家さんも判断できません。
全額が難しい場合
一部でも入れることを提案してください。
全額は難しいのですが、◯月◯日に半額の◯◯円をお支払いし、残りを◯月◯日にお支払いする形でご検討いただけないでしょうか。
払う意思を、金額で示すことが大切です。
比較:家賃を作る
伝えたうえで、資金そのものが要ります。安い順に当たります。
まず、ほかの支払いを動かせないか
家賃は月末や月初に集中します。同じ時期に出る支払いの中で、交渉できるものから先に動かします。
- 仕入先への支払い——相談の余地があります
- 税金・社会保険料——法律上の猶予制度があります
- 賃金——動かせません。最優先で確保します
税金と社会保険料の猶予については、次のページにまとめています。
売掛金を資金化する
取引先に出した請求書があれば、入金日を待たずに現金にできます。
借入ではないため、審査で主に見られるのは自社ではなく取引先の支払い能力です。
ここで、家賃ならではの注意点があります。
家賃は毎月かかる固定費です。手数料を払って今月分を作っても、翌月また同じ額が必要になります。
1回だけの穴埋めなら合理的です。しかし2か月続いたら、それは家賃が身の丈に合っていないという合図です。
手順:固定費そのものを見直す
今月をしのいでも、来月また同じ日が来ます。
家賃が重いと感じているなら、そこに手を付けないかぎり終わりません。
家賃の減額交渉
契約更新のタイミングでなくても、相談はできます。
現在の賃料についてご相談させてください。周辺の相場と比べて割高になっており、このままでは契約の継続が難しい状況です。月額◯◯円へのご検討をいただけないでしょうか。長期でお借りしたいと考えております。
「出ていくかもしれない」と暗に伝わる形にするのがコツです。大家さんにとって、空室期間が発生するほうが損失は大きくなります。
移転・縮小の検討
在宅勤務が増えているなら、いまの広さが要らないかもしれません。
移転には費用がかかります。ただし、月10万円の差なら1年で120万円です。移転費用を回収できるかどうかで判断してください。
そのほかの固定費
- 使っていないサブスクや保守契約
- 稼働の少ないリース資産
- 過剰な保険
1つずつは小さくても、合計すると家賃1か月分になることがあります。
条件が合いそうであれば、見積もりを取るところからです。相談だけであれば費用はかかりません。
今日やる一歩
このページを閉じたら、最初にやることを1つだけ決めましょう。
- 今月が厳しい——大家さんまたは管理会社に電話し、支払える日を伝える
- 督促が来ている——書面の日付と、いつまでに払うよう書かれているかを確認する
- 毎月ぎりぎり——家賃が月商の何%を占めているか計算する
連絡しないまま支払日を過ぎることだけは避けてください。
参考にした公的資料
- 借地借家法|e-Gov法令検索——第28条・第30条。滞納月数の明文規定がないことを条文で確認(2026年8月7日確認)
- 民法|e-Gov法令検索——第541条(催告による解除)(2026年8月7日確認)
- 金融庁「ファクタリングに関する注意喚起」——実質的な貸付への注意(2026年8月7日確認)
このページは、資金調達と関連制度の判断材料をお伝えするものです。特定のサービスの利用を勧めるものではありません。契約の解除や滞納への対応は個別の事情によって判断が変わります。実際の対応にあたっては、弁護士等の専門家へご相談ください。
よくある質問
家賃を何か月滞納したら、追い出されますか?
「何か月で解除できる」という明文の規定は、借地借家法にも民法にもありません。実務でよく言われる月数は、裁判例の積み重ねによる目安であって、法律で決まった基準ではありません。解除の一般的な根拠は民法第541条で、相当の期間を定めて催告し、その期間内に支払いがないときに解除ができるとされています。
滞納したら、すぐ出ていかなければなりませんか?
すぐではありません。民法第541条は、解除の前に相当の期間を定めた催告を求めています。また借地借家法第30条は、この節の規定に反する特約で賃借人に不利なものは無効とすると定めています。ただし放置すれば手続きは進みますので、督促が来た時点で必ず連絡してください。
大家さんに相談すると、かえって立場が悪くなりませんか?
逆です。黙って支払日を過ぎるほうが、信頼を大きく損ないます。期日の前に自分から連絡し、いつ・いくら払えるかを具体的に示せば、多くの場合は調整に応じてもらえます。空室にするより、支払ってもらうほうが大家さんにとっても得だからです。
家賃のために借りるのは得策ですか?
家賃は毎月かかる固定費です。一度借りて払っても、翌月また同じ額が必要になります。借りる前に、まず支払時期の相談と、固定費そのものの見直しを検討してください。そのうえで足りない分を、費用の安い手段から埋めていくのが順番です。