買掛金が払えないとき|止まる前の順番
更新日: 2026-09-07
この記事でわかること
- 買掛金の中には、支払期日を当事者の合意だけでは決められない型があります。
- 受領した日から起算して六十日という上限が、法律の側で定められている取引があります。
- その型に当たるかどうかは、取引の種類と、資本金または従業員数の区分で決まります。
- 支払いが遅れたときの遅延利息の率は、公正取引委員会規則で年14.6パーセントと定められています。
- 支払を手形に振り替えて先送りする方法も、条文が名指しで挙げている行為に含まれます。
目次
買掛金の支払日が近づいているのに、口座に残高が足りない。このページは、その状況で何を先に確かめるかを整理するためのものです。
最初に押さえていただきたいのは、支払いの順番の話ではありません。買掛金には、支払期日を当事者の合意だけでは決められない型があるということです。
自社の買掛金がその型に当たるなら、遅らせた瞬間に法律上の義務が発生します。当たらないなら、契約と民法の側で考えることになります。まずこの分かれ道を確かめてください。
まず結論:止まるのは支払いではなく、仕入れです
支払いを止めても、会社はその日には止まりません。
止まるのは次の納品です。仕入先が出荷を控えれば、売る物がなくなります。資金の問題が、その日のうちに事業の問題に変わるのが買掛金の怖いところです。
だから連絡を後回しにしないことをお勧めします。
ただし、連絡の前に確かめておくべきことがあります。自社と仕入先の関係が法律の対象に当たる場合、「待ってもらう」という言い方そのものが成り立たないことがあるためです。順番としては、法律の側を先に見てください。
仕組み:買掛金には、法律が期日を決めている型がある
もとは「下請代金支払遅延等防止法」という題名で知られていた法律があります。現在の題名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。
用語も変わりました。「親事業者」は委託事業者、「下請事業者」は中小受託事業者、「下請代金」は製造委託等代金と呼ばれています。古い記事や社内の様式が旧称のままになっていることがありますので、条文を当たるときは注意してください。
この法律の第三条が、支払期日そのものを縛っています。
条文はこう定めています。製造委託等代金の支払期日は、給付の内容について検査をするかどうかを問わない。給付を受領した日から起算して六十日の期間内において、かつできる限り短い期間内において、定められなければならない。
検査の有無は関係ありません。起点は受領した日です。
さらに第2項に、決めなかった場合と決め間違えた場合の扱いが書かれています。支払期日を定めなかったときは、給付を受領した日が支払期日とみなされます。六十日を超える支払期日を定めたときは、受領した日から起算して六十日を経過した日の前日が支払期日と定められたものとみなされます。
つまり、当事者が何日と決めていても、法律の側で置き換わります。
条件:自社がその型に当たるかを、2つの軸で見る
すべての買掛金がこの法律の対象になるわけではありません。ここを曖昧にしたまま進めないでください。
見るべき軸は2つです。取引の種類と、当事者の規模の区分です。
対象になる取引は、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託です。条文はこれらをまとめて「製造委託等」と呼んでいます。
規模のほうは、第二条第8項と第9項で組み合わせが定められています。おもなものを並べます。
| 取引の種類 | 委託する側(委託事業者) | 委託を受ける側(中小受託事業者) |
|---|---|---|
| 製造委託等 | 資本金または出資の総額が3億円超の法人 | 個人、または資本金3億円以下の法人 |
| 製造委託等 | 資本金1,000万円超〜3億円以下の法人 | 個人、または資本金1,000万円以下の法人 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託 | 資本金5,000万円超の法人 | 個人、または資本金5,000万円以下の法人 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託 | 資本金1,000万円超〜5,000万円以下の法人 | 個人、または資本金1,000万円以下の法人 |
規模の区分は資本金だけではありません。常時使用する従業員の数による区分も条文に置かれています。製造委託等では300人、情報成果物作成委託と役務提供委託では100人が区切りです。
自社が委託事業者にあたり、仕入先が中小受託事業者にあたる。この組み合わせが成り立つときに、第三条の期限が働きます。
成り立たない場合は、契約書と民法の側で考えることになります。その場合の支払期日は、当事者が決めた日です。
費用:遅れたときに上乗せされるもの
対象になる取引で支払期日までに支払わなかった場合、第六条が遅延利息の支払義務を定めています。
計算の期間は、支払期日からではありません。給付を受領した日から起算して六十日を経過した日から、支払をする日までの期間です。その日数に応じて、未払金額に率を乗じた金額を支払うことになります。
その率は公正取引委員会規則で定められています。年14.6パーセントです。
規則の名前は「下請代金支払遅延等防止法第四条の二の規定による遅延利息の率を定める規則」で、昭和三十七年公正取引委員会規則第一号にあたります。
対象外の一般の買掛金はどうか。民法第四百十九条第1項は、金銭の給付を目的とする債務の不履行について、損害賠償の額は債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めると規定しています。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によるとも書かれています。
契約書に遅延損害金の定めがあれば、そちらが効いてくる可能性があるということです。手元の基本契約書を確認してください。
もうひとつ、同条第2項に押さえておきたい規定があります。この損害賠償については、債権者は損害の証明をすることを要しないというものです。相手方が損害を立証しなくても請求は成り立ちます。
手順:連絡は「いつ・いくら」を先に出す
確かめる順番を整理します。
1. 受領日を特定する。支払期日ではなく、納品や役務の提供を受けた日です。第三条の起点はここにあります。
2. 対象の型に当たるかを判定する。取引の種類と、資本金または従業員数の区分を照らします。判断がつかないときは、条文を印刷して顧問の専門家に見てもらうのが早道です。
3. 遅れる日数と金額を確定させる。「少し遅れます」では相手は判断できません。いつ・いくら払えるのかを、数字で先に出してください。
4. その上で連絡する。対象の型に当たる場合は、遅延利息の扱いも含めて話すことになります。
支払サイトそのものを見直したい場合は、次のページもあわせてご覧ください。
注意点:やってはいけない先送りの仕方
条文が名指しで挙げている行為があります。第五条第二号です。
委託事業者は、製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないことをしてはならない、と規定されています。そしてこの号には、括弧書きで次の行為が含まれると書かれています。
ひとつは手形を交付することです。もうひとつは、金銭および手形以外の支払手段であって、支払期日までに代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用することです。
現金が足りないから手形で。その振替は、条文が対象に含めています。
違反があった場合の流れも決められています。第十条により、公正取引委員会は第五条に違反する行為があると認めるときに、代金や第六条の遅延利息を支払うべきことなどの措置をとるよう勧告することができます。第九条では、中小企業庁長官が調査を行い、公正取引委員会に対して適当な措置を求めることができるとされています。
書面の側にも罰則があります。第十四条が挙げているのは3つです。明示すべき事項を明示しなかったとき。書面を交付しなかったとき。書類や電磁的記録を作成せず若しくは保存せず、又は虚偽の書類を作成したとき。いずれも50万円以下の罰金と定められています。
最後に時効です。払わずに時間が過ぎれば消えるのではないか、と考えたくなる場面があるかもしれません。民法第百六十六条第1項は、債権が時効で消滅する場合を2つ挙げています。権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。もうひとつは、権利を行使することができる時から十年間行使しないときです。
取引先が請求を続けているうちは、その状態にはなりません。放置して消える性質のものではないとお考えください。
不足額がはっきりしていて、取引先に出した請求書が手元にある場合は、その請求書を入金日より前に資金化して支払日に充てるという選択肢もあります。手数料がかかりますし、条件が合わないこともあります。見積もりを取って比べたうえでご判断ください。
今日やる一歩
このページを閉じたあと、最初にやることを1つだけ決めましょう。
- まだ支払日まで日数がある——受領日と支払期日を並べた一覧を作り、六十日の線を超えている取引がないか確かめる
- 今週が支払日——遅れる金額と、払える日付を確定させる。連絡はそのあとです
- すでに遅れている——対象の型に当たるかを判定し、遅延利息の扱いを含めて相手と話す
いちばんしてはいけないのは、条件を確かめないまま「待ってください」とだけ伝えることです。
参考にした公的資料
- e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」——第三条(支払期日)・第五条・第六条(遅延利息)・第九条・第十条・第十四条(2026年9月7日確認)
- e-Gov法令検索「下請代金支払遅延等防止法第四条の二の規定による遅延利息の率を定める規則」——遅延利息の率(2026年9月7日確認)
- e-Gov法令検索「民法」——第百六十六条(消滅時効)・第四百十九条(金銭債務の特則)(2026年9月7日確認)
このページは資金調達と関連制度の判断材料をお伝えするものであり、特定のサービスの利用を勧めるものではありません。取引が法律の対象に当たるかどうかの判断や、契約上の取り扱いについては、必ず弁護士等の専門家へご確認ください。制度の内容は変わることがあります。
よくある質問
買掛金の支払期日は、取引先と話し合って自由に決められますか?
取引の種類と規模の区分によっては、自由に決められません。製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の第三条は、給付を受領した日から起算して六十日の期間内で、かつできる限り短い期間内に支払期日を定めなければならないと規定しています。
六十日を超える支払期日を決めていた場合はどうなりますか?
同条第2項により、給付を受領した日から起算して六十日を経過した日の前日が、支払期日と定められたものとみなされます。支払期日を定めていなかったときは、受領した日が支払期日とみなされます。
支払いが遅れると、どれだけ上乗せされますか?
同法第六条の対象になる取引では、公正取引委員会規則が定める率を乗じた金額を遅延利息として支払う義務があります。その率は、下請代金支払遅延等防止法第四条の二の規定による遅延利息の率を定める規則で年14.6パーセントと定められています。
買掛金を払わないまま時間が経てば、支払義務は消えますか?
消えません。民法第百六十六条第1項は、債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間、または権利を行使することができる時から十年間行使しないときに時効によって消滅すると規定しています。放置して自然に消えるものではないとお考えください。